PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FOOD BATON ビストロ ボナップ 田口博之さんのビストロ料理

海や山、自然に恵まれた湘南には、季節折々の旬な 食材が集まる。
その食の豊かさにひかれて、この地に暮らす料理人は多い。
食のバトンがつなぐ、湘南のテーブルストーリーに耳を傾けてみよう。
今回、「カレークラブ キュイエール」の吉原耕平さんから、フードバトンを引き継ぐのは、
「ビストロ ボナップ」の田口博之さんだ。

「#015 吉原耕平さんのカレー」はこちらから

Photos : Pero  Text : Paddler

フランス料理の名店で修行を積んできたオーナーシェフの田口博之さん。2017年にビストロ料理をメインとした「ビストロ ボナップ」をオープンした
友だちや家族に料理を作るように

今湘南の食好きに注目されているのが大船エリアだ。ここ数年、新進気鋭の若い料理人たちが続々と新しい店をオープンさせて腕を競いあっている。以前《FOOD BATON #014》で紹介した本格フレンチの「シェ・ケンタロウ」はその火付け役の一軒だが、北鎌倉へ移転後に、同店舗があった場所で開業したのが「ビストロ ボナップ」だ。

オーナーシェフの田口博之さんは、まだ30代ながら料理人としてのキャリアは申し分ない。「ミクニ マルノウチ」、「葉山ホテル音羽ノ森」で修業後、「シェ・ケンタロウ」で副料理長に。そして、フランスの星付きのグランメゾンやバスク地方の料理店で修行をして帰国、1年半前に満を持して自分の店をオープンした。料理人として、心身ともにあぶらが乗っている時期だ。

メニューはオーソドックスなフランス料理をベースに、田口さんならではのセンスが生かされたビストロ料理。たとえば、店の看板料理の一つでもある「馬肉のタルタル」は、牛肉のタルタルステーキを馬肉でアレンジ。くせのない馬肉の滋味を、コルニッションやケッパー、マスタ―ドなどのスパイスが見事に引き立てる。

三崎の漁師直送の魚介や三浦産の旬の野菜など、地元の幸を生かした料理も白眉(はくび)だ。繊細ながら芯の通った味付けで、ワインとの相性も抜群。

「基本的に僕が作る料理って、好きな食材とか食べたい料理とか、自分が好きなものなんです。飲むことも好きなので、味にメリハリがあって、お酒に合うような料理が多いですね」

田口さんが手がける料理は、どれも丁寧に仕事がされている。ひと皿ひと皿から、真摯に料理に向かい合う姿勢がにじみ出る。

「料理に関しては本当に誠実にするようにしています。楽をすればいくらでも楽はできるんです。こんな手間をかけてもお客さんに伝わらないことも、いっぱいあります。ですが、やれることはやりたいです。友だちや家族に料理を作るように……。そういう気持ちで作っています」↙︎
店は大船駅からほど近いビルの一角。店内の雰囲気は本場フランスのビストロのよう
田口さん自身もお酒好きだけあってワインの取りそろえも充実。グラスワインのほか、ボトルもリーズナブルに楽しめる
看板料理の「熊本産 馬肉のタルタル」(2,000円)のほかにも、旬の魚介料理もおすすめ。本日のレコメンドメニューは「佐賀県産のアスパラガスとホッキ貝のソテー」(2,000円)。ディナーはアラカルトのほか、コース(5,000円)も楽しめる(要予約)
店名に込める想い

フランス料理とひと口にいっても、実に幅広い。高級レストランで供されるコースから、ビストロで楽しめるカジュアルな料理、そして家庭料理までさまざまだ。ずっと正統派のフランス料理店で下積みし、フレンチシェフの極みを目指していた田口さんだったが、フランスでの修業を経て、新たな想いが生まれた。

「ブルゴーニュの一つ星のレストランと、スペインとの国境辺りのバスク地方の、ブラッスリーと呼ばれる街の本当にカジュアルな食堂で働いたんです。僕が今まで働いていた店は、お客さんも美術館に来ているような感じでかしこまっていて、慣れていない人が行くとすごく緊張するような雰囲気だったんです。ですが、バスクの店は、お客さんもスタッフもみんなゲラゲラ笑って、すごく楽しそうで。『同じフランス料理でもこんなに差があるんだな』と。で、僕が独立してお店をやるなら、もう気楽にワイン注ぎ合って、家族でも楽しめるフランス料理がやりたいなと思ったんです」

そんな田口さんの想いが店の名前にも込められている。

「フランス人の友だちが、一緒に食事する時に『Bonapp(ボナップ)』って言っていたんですよ。それまで聞いたことがなかったんですけど、『召し上がれ』という意味の『ボナペティ』よりも、友だち同士や家族でのくだけた『さあ、食べようよ』とか『楽しい食事にしよう』という意味なんだよ、と教えてくれました。いい言葉だなと思って、自分の店の名前にしました」

なるほど、店内を見渡すと、仲間でテーブルを囲んだり、カップルがグラスを酌み交わしていたり、スタッフとお馴染みが談笑したりと実に楽しげだ。肩ひじ張らずみんなでワイワイと楽しめる。しかも、料理はこだわりと粋が詰まったひと皿。こんな店が身近にある大船に暮らす人々は幸せだ。
高級なグランメゾンよりもカジュアルに楽しめるビストロを手がけたい。そんな田口さんの想いはスタッフみんなにいき渡っている
田口さんの父親もフランス料理のオーナーシェフ。厳しい時代、心が折れそうになったこともあったが、父親からの手紙が勇気づけてくれたそう
「お客さんが『本当においしかった』と言ってくれる時に、全部報われます。喜んで帰っていただく時に、一番やり甲斐を感じます」
WHERE THE NEXT?
田口さんオススメの一軒は?

リストランテ シーヴァ(七里ガ浜)

「修行時代からの親友のお店です。基本的にはお任せコース。キッチンの中に入って、彼からインスピレーションを受けることもあります」(田口)
ビストロ ボナップ
神奈川県鎌倉市大船1-12-18エミールビル3F [MAP]
TEL. 0467-81-3090
OPEN. 11:30~14:00(L.O)/18:00~21:00(L.O)
CLOSE. 火

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