THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介

THE PADDLER | 062 Mr. Toru Saito リサイクラー・pimlicoartsjapan 主宰
さいとうとおるさん | 葉山

湘南には、自分らしく人生を切り拓くために漕ぎ出す男たち=THE PADDLERがいる。
彼らを突き動かすもの、そして、視線の先にあるものは?
INPUTとOUTPUTという二つのワードから、その行動を探る。

Photo: Yumi Saito  Text: Takuro Watanabe Edit: Yu Tokunaga

INPUT
「子どもの頃に憧れた未来の街を作っているイメージなんです」

そのランプ作品をはじめて見た時に、すっかり心を奪われた。色褪せた海洋プラスチックが組み合わされた小さなランプは、うっすらと控えめに光っているのに強烈な存在感。見た人皆が好きにならずにはいられないような作品を作るのは、リサイクラーのさいとうとおるさん。横須賀・佐島にあるアトリエを訪ねると、そこにはワクワクするような作品が溢れていた。

「海洋プラスチック素材との最初の出会いは2015年、ヨーガンレールさんの展覧会でした。作品を見た時の体験が衝撃的で、世界の見方が変わりました。それから自分でも海洋プラスチックを集め始めたんです」↙︎
最初は見様見真似で制作し、自分ならではの形を模索していった。オリジナルに辿り着いたのは2021年頃だったという。
さいとうさんの照明作品を見ていると、まるで子どもの頃に空想していた未来都市のような世界で楽しくなってくる。

「まさにそうなんです。建築物をつくっているという意識はあります。子どもの頃に憧れた未来の街を作っているイメージなんです。手塚治虫の世界とかが刷り込まれているのかもしれませんね。ずっと建築への憧れがあって、旧社会主義国の建築、大きくて華美な建築が好きなんです。映画や音楽
の世界観にも影響を受けていますね」↙︎
さいとうさんが言うように、ランプ作品の姿は確かに建築のようだ。日に焼けた海洋プラスチックとレトロなメカのようなスイッチ部の組み合わせ。立ち姿も光も控えめなのにオーラを放つから不思議だ。
素材となる海洋プラスチックは日本各地の海辺を歩き、集めている。

「人工物が波や風によって風化した素材が好きなんです。当初は“シャイン・オン・プラスティック”というテーマを持っていました。ジョニ・ミッチェルの『シャイン』という曲があって、“どんなものにも輝きを与えよう、ヤミのある世界にも”っていうような意味の曲が優しくて好きで、インスピレーションをもらいました。プラスチックはある時から一気に嫌われたじゃないですか。もちろん環境問題の象徴でもあります。でも、可愛さもあるし、ゴミでも綺麗なものに生まれ変わることができる。価値観が変わるんだよっていうのは伝えたいことの一つです」↙︎

OUTPUT
「海を通じて出会う人とは深く繋がれると思うんです」

屋号であるpimlicoartsjapan。そのルーツはロンドンにあるそうだ。

「ロンドンで料理人をしている時に、エジプト人のアリさんという人と一緒に暮らしていたんですけど、彼がリサイクラーを名乗っていたんです。アート活動をしていたというわけではないんですけど、リサイクルの思想などを学びました。僕らが住んでいたエリアがピムリコという名で、アリさんはいつも『とおる、ここがピムリコアーツなんだよ』と言うんです。その名前を僕もいただきました」

そのピムリコで、アリさんが市場でもらってきた廃棄食材を用いてさいとうさんが料理をし、自分達のコミュニティで食事を振る舞うパーティーを開催していたそうだ。これがさいとうさんのリサイクラーの原点となる。
帰国後はしばらく料理の仕事をしていたが、その後、ものづくりの世界へ。母親の影響もあって子どもの頃から親しんでいたミシンを用いて、かばん職人に転身をする。
東京で暮らしていたが、20年以上親しんでいるサーフィンをする環境を求めて葉山に移住。その後、pimlicoartsjapanをスタートさせることとなった。↙︎
さいとうさんにとって海は常に大切なものとして存在する。サーフィンという一番好きな時間を過ごす場であり、作品の素材を採取する場でもある。

「素材集めは大変なんですけど、だんだんメディテーションみたいになってくるんです。素材にはそれぞれ背景というかドラマみたいなものがあるんですよ。以前に千葉の和田ですごいレアパーツを見つけたんですが、なぜだか忘れて帰っちゃったことがあるんです。でも諦めきれずに何日か後にもう一度行ったんですけど、やっぱりもうなかった。あきらめて帰ろうとなって普段寄らないところに寄ったら、ゴミ溜め場にそのレアパーツがあったんです。最初に出合った場所から2キロは離れていました。奇跡ですよね!」

“レアパーツ”の線引きは、正直、さいとうさんにしかわからない世界ではあるのだが、とにかく嬉しそうに話してくれた。
近隣だと長者ヶ崎でも、さいとうさんのいうところのレアパーツがよく見つかるという。長者ヶ崎でサーフィンをした後に浜で夢中で海洋プラスチック拾いをしている人がいたら、それはさいとうさんかもしれない。↙︎
「葉山に暮らしだしてから仲間も増えたし、僕の作品を理解してくれる感覚の人も多いから嬉しかったです。それはやはり海があるからなんだと思うんです。湘南エリアは海で人が繋がっているというのがありますよね。そういう人同士は共通するものが多い気がするし、海を通じて出会う人とは深く繋がれると思うんです」

海で過ごす時間が多い人にとっては、特に考えなければいけない海洋プラスチックの問題。さいとうさんの作品の世界を通して、ゴミがゴミじゃなくなるという発想の変換の面白さに気づくことができるし、地球環境への気づきの一歩が、ワクワクするようなアート作品からというのは素敵な話じゃないだろうか。

THE PADDLER PROFILE

さいとうとおる

リサイクラー。1979年神奈川県生まれ。葉山在住。pimlicoartsjapan名義で海に漂着した海洋プラスチックを素材にした作品づくりを行う。