PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FOOD BATON シェ・ケンタロウ 鈴木謙太郎さんのフランス料理

海や山、自然に恵まれた湘南には、季節折々の旬な 食材が集まる。
その食の豊かさにひかれて、この地に暮らす料理人は多い。
食のバトンがつなぐ、湘南のテーブルストーリーに耳を傾けてみよう。
今回、「タケル クインディチ」の頭山威児さんから、フードバトンを引き継ぐのは、
「Chez Kentaro−シェ・ケンタロウ−」の鈴木謙太郎さんだ。

「#013 頭山威児さんのピザ」はこちらから

Photos : Pero  Text : Paddler

シェフの鈴木謙太郎さん。「ミクニマルノウチ」でスーシェフ、「葉山ホテル音羽ノ森」でシェフとして活躍後、南仏プロヴァンス地方のミシュラン1つ星の「オーベルジュ・ラ・フニエール」へ。帰国後、「Chez Kentaro−シェ・ケンタロウ−」をオープン
隠れ家レストランで、本格フレンチを

今湘南の食通の間で評判を呼んでいるフレンチレストンが、「シェ・ケンタロウ」だ。シェフの鈴木謙太郎さんは、国内のホテルで修業を重ね、「ミクニマルノウチ」でスーシェフに。「葉山ホテル音羽ノ森」でシェフとして活躍した後に、南仏プロヴァンス地方のミシュラン1つ星の「オーベルジュ・ラ・フニエール」へ。併設するビストロ「クール・ド・フェルム」でシェフを務めた実力派の料理人だ。帰国後、大船にオープンした「Chez Kentaro−シェ・ケンタロウ−」が人気を呼び、一昨年、次のステージを目指して、お気に入りの北鎌倉に新天地を求めた。

看板を頼りにビルの一角を入ると、その空間に息をのむ。広々とした店内には、ガラス窓から坪庭の緑に映えた光が差し込む。床の間には花が生けられ、バーには茶釜も。フロアにはテーブルは数えるほど。何とも贅沢な佇まいだ。店内の奥には、茶室をリノベーションした個室とバースペースがしつらえられている。フレンチでありながら、所々に和のエッセンスが香る。古都に似つかわしい店構えだ。

メニューはシェフのおまかせコースのみ。料理は、オーセンティックなフランス料理をベースにしながらも、繊細が際立つ。どれも食材のシンプルな旨味が引き立つ一品だ。鈴木さんがプロヴァンスで培った経験の賜物だ。

「『フランス料理を勉強したい』という料理人に、プロヴァンスという選択肢はあまりないんです。料理がすごくシンプルで素朴なものが多いので。バターやクリームを多用する『ザ・フランス料理』はもっと北の方ですから。僕はたまたま縁があって行ったんですけど、逆にすごくよかったですね。その土地の食材を大事にするというスタンスがすごく勉強になりました」

店の看板料理の一つが、プロヴァンスの郷土料理ブイヤベース。絶妙に火入れをした新鮮な魚介が入ったスープ皿に、滋味があふれるアツアツのスープが眼前で注がれる。シンプルなだけに決め手となるのが食材だ。

「魚介は三崎や金田湾産です。昔からお世話になっている仕入れ先です。野菜も三浦産を使っています。湘南はプロヴァンスと環境が似ているんです。山にも海にも恵まれていて。鎌倉市とニースは姉妹都市でもあるくらいですから」

湘南の山海の幸が、鈴木シェフによって、本場プロヴァンス料理に昇華される。↙︎
和のエッセンスが漂う落ち着いた店内。窓から注ぐ太陽の光が心地いい
シェフのスペチャリテ、湘南の魚介のブイヤベース。プロヴァンスの代表的郷土料理をアレンジ
メニューはシェフのおまかせコースのみ。ランチは4,800円、ディナーは7,500円と10,000円の2コース。好みに合わせて、鈴木さんがアレンジしてくれる。本日の肉料理は、鴨ローストの赤ワインソース
父から継いだ、料理人の心と夢

「シェ・ケンタロウ」には、もてなしの心があふれる。ディナーは3組の客しか予約を取らない。客が料理を堪能できるように、パーテーションで区切り、プライベートな空間を演出する。特筆すべきは、コースのメニューだ。その日、その客、その食材に合わせて料理をアレンジする。過去にその客が食事をした料理とワインを控えて、次回にはまた新しい楽しみを提供する。

「まあ、手間はかかるんですけど、それがやりたくてこういうお店にしたので。それに、結構あきっぽいんですよ。同じものずっと作るのが嫌なんです」と笑う鈴木さん。だが、そこには料理人としての本懐がある。

「料理を作っている人間なので、本当に当たり前ですけど、お客様に喜んで感動してもらえれば『やっていてよかったな』と思う。それしかないですよね」

客本位という生粋の料理人としての鈴木さんの気質は、その生い立ちに負う。実家は福島県で洋食屋を営む。料理人の父親の背中を見て育った鈴木さんは、高校卒業を前に料理の世界に進むことを決心した。だが、「きつい仕事だし、オレと同じ道を歩ませたくない」と父親は猛反対。

「結局は父親が折れましたね。初めのころはいい加減で、先輩には迷惑をかけたかもしれません。店は何軒か変わりましたが、料理をやめてほかの世界にいこうと考えたことはありません。一度、父親にから聞いたことがあるんです。親父は脱サラして料理人になったクチで。東京で修行するという話もあった。でも当時結婚していて、うちのお袋にはもうお腹に子どもがいたんです。それが自分なんですよ。『責任を感じた』と言ったら重いですが、自分がいたから、夢もつぶれたんではないか。じゃあ逆にその分がんばろう、と」

父親が働く姿から料理人としての心を学んだ鈴木さん。初めてシェフになった時に、両親を自分が働く店に招待した。

「『そろそろ親孝行の一つでもしてみようかな』と。本当にすごく喜んでくれました。その後、フランスで修業中に母親が事故で他界してしまい『最初で最後の親孝行』になってしまいましたが」

料理の世界を邁進し続ける鈴木さん。「シェ・ケンタロウ」の心通う料理ともてなしを感じに、足を運んでみたい。
茶室をリノベーションした個室も。ゆったりと食事を楽しむことができる
料理に合わせソムリエがドリンクを厳選してくれる「ドリンクペアリング」は、料理と飲み物のマリアージュを楽しみたい人におすすめ。ドリンク3種 3,500円 (ランチ)、4種 5,000円 / 6種 6,500円 (ディナー)
「もっといろんな方と知り合いたいですね。できるだけ多くの人に、自分の料理やサービスで感動してもらえたらうれしいです」
WHERE THE NEXT?
鈴木さんオススメの一軒は?

カレークラブ キュイエール (大船)

「自分の店で働いていたスタッフがオープンしました。カレーだけでなくビストロ料理もおいしく、大人気ですよ」(鈴木)
シェ・ケンタロウ
神奈川県鎌倉市山ノ内407 北鎌倉門前1階[MAP]
OPEN. 11:30 ~ 13:30/18:00~20:30
CLOSE. 火・第3水
※ディナーは要予約 3組限定

>>http://chezkentaro.com/