PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FOOD BATON カレークラブ キュイエール 吉原耕平さんのカレー

海や山、自然に恵まれた湘南には、季節折々の旬な 食材が集まる。
その食の豊かさにひかれて、この地に暮らす料理人は多い。
食のバトンがつなぐ、湘南のテーブルストーリーに耳を傾けてみよう。
今回、「Chez Kentaro−シェ・ケンタロウ−」
の鈴木謙太郎さんから、フードバトンを引き継ぐのは、
カレークラブ キュイエールの吉原耕平さんだ。

「#014鈴木謙太郎さんのフランス料理」はこちらから

Photos : Pero  Text : Paddler

フランス料理店で修行を積んできたシェフの吉原耕平さん。5年前にカレーとビストロ料理をメインとした「カレークラブ キュイエール」をオープン。一躍、人気店となった
フランス料理とカレーの出会い

老若男女から愛される料理といえばカレーライスだろう。日本の国民食といっても過言ではなく、数多くのカレー専門店が味を競い合っている。今湘南で評判を呼んでいる人気カレーレストランが「カレークラブ キュイエール」だ。

店は、大船駅からほど近いビルの1階。昼時には店の前に行列ができ、夜も予約でいっぱいということも珍しくない。ランチでは10種類以上のカレーを楽しむことができる。「お客様は、大人はもちろん、本当に小さいお子様からおじいさんおばあさんまで様々です」と、語るのはオーナーの吉原耕平さんだ。

国民食のカレーといえども、そのスタイルは店によって異なる。辛さやスパイスが苦手、あるいは子ども向けのカレーは物足りないと、味の好みは千差万別だ。年齢を問わずおいしいと感じるカレーを実現するのは実は難しい。

カレークラブ キュイエールのカレーは、いい意味でカレーライスの概念を崩される。いわゆる欧風カレーというジャンルに入るのだろうが、さらに手が込んでいる。旨みが凝縮されたカレールーと丁寧に料理された具材が絶妙なハーモニーを醸し出す。例えば、シーフードカレーは、ブイヤベースのような新鮮な魚介料理が、カレーソースによって、さらなるおいしさが引き出されている。複雑かつ上質。まるで、フランス料理のひと皿のようだ。それもそのはず、吉原さんは長年フランス料理レストランで修業を積んだフレンチの料理人なのだ。

「フランス料理がベースになっています。フォン・ド・ボーといわれる出汁とかですね。いわゆるルーといわれるベースは2種類作っています。炒めた玉ねぎと牛のアキレス腱を形がなくなるまで煮込んで、12、3種類のスパイスで風味をつけます。それで、チキンカレーだったら、バスク風の鶏の煮込みというフレンチのレシピがあるんですが、それをカレーという料理に落とし込みます」

ベースの出汁を作るだけで、4、5日かかるという手のかけよう。一方、食材は三浦野菜や秋谷の魚介など地元産にこだわり、鮮度を追求しながら安全性にも気遣う。手間暇かけたカレークラブ キュイエールのカレーのおいしさは、年齢を超えて舌に響く。夜になるとカレーはもちろん、ワインとともに本格的なフレンチのビストロ料理に舌鼓を打つことができる。

「このような店はあまりないのでは?」と吉原さん。フレンチとカレーが出会った理由とは?↙︎
忙しいランチタイムが終わり、ひと息ついてすぐにディナーの準備に。昼も夜も名物のカレーを目当てに店内はにぎわう。おいしさの秘密は、4、5日かけて仕込むカレールー。濃厚なコクと旨味をスパイスが引き締める絶品。
ランチタイムは10種類ほどのカレーを楽しめる。写真のシーフードカレー(1,700円)や骨付き鶏モモ肉のバスク風カレー(900円)が人気。キッシュも看板料理の一つ。旬の食材をふんだんに使った上品な味。夜はビストロ料理がアラカルトで楽しめる
話の節々から料理人としてのプライドがにじみ出る吉原さん。「お客さんが、わざわざカウンターの中で料理している自分に向かっておいしいと言っていってくれることがある。うれしいですね」
料理人としてのプライドをかけて

青年時代までプロの格闘技家を目指していた吉原さん。大学3年生で格闘技人生に見切りをつけて、新しい人生で選んだのが料理人への道だった。

「母親がケーキ職人だったこともあって、料理には興味がありました。もの作りのよさや大変さも知っていたので、若いうちなら失敗しても潰しがきくと思って」

何軒か店で修業を続けるうちに、フランス料理の奥深さに引き込まれていった。フランスに渡ってさらに勉強をと思い立った矢先に、家庭のやむなき事情で、やむなく断念することに……。

「フランスで修業ができないのであれば、独立の仕方として、フランス料理店にこだわる必要もない。だったらもっと柔軟に考えよう。それで思いついたのがカレーでした」

「地方発信の方がやりがいがある」と、東京ではなく地元の大船で店を出したいと考えていた吉原さん。大船は居酒屋など呑み屋が多く、小さい子どもがいる家族連れが普段づかいできるような店が少ないと常々頭にあった。フランス料理だと敷居が高すぎる。老若男女が楽しめる料理は? と思い当ったのがカレーだった。

だが、フランス料理とカレー、まったく異なる世界の料理。その味の追求は、苦労したのでは?

「いえ、ベースとなるルーは一発で決まりましたね。フランス料理人としての引き出しがあるので、味覚の構成の仕方は難しくはないんですよ」と吉原さん。さらにカレーを選んだのには、「裏テーマ」があるとも語る。

「『フランス料理人は何でも作れるんだぞ』というプライドですね。さらにうちの店はカレー屋ですが『普通のフランス料理屋さんに負けない』と思っていますし、カレーも『カレー屋さんに負けない』と思っています。ただ、最終的な表現の仕方がちょっと捻くれている、というだけなんです」

フレンチ料理人の誇りが生むカレー。ぜひとも味わってみたい。
ビルの一角に店を構える。昼時には店の前に行列ができることも。時間がなければ、テイクアウトも利用できる
ワインのセレクト役は吉原さんの奥様。40種類以上を楽しめる。果実味が強くスパイシーなワインはカレーとの相性も抜群
「病みつきになる味だと思います!小さな店ですが、ぜひ一度食べにきて下さい」
WHERE THE NEXT?
吉原さんオススメの一軒は?

ビストロ ボナップ (大船)

「お店が近くなので、スタッフ一同でよくうかがいます。何でもおいしいですが、ランチのサラダグルマンドがおすすめですね」(吉原)
カレークラブ キュイエール
神奈川県鎌倉市大船1-13-11 岡本ビル1F [MAP]
TEL. 0467-53-7515
OPEN. 11:00~15:00(L.O)/17:30~21:30(L.O)
CLOSE. 月

>>http://cuillere.club/