THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介

THE PADDLER | 050 Mr.Shingo Abe SMILIES代表
阿部臣吾さん | 逗子

湘南には、自分らしく人生を切り拓くために漕ぎ出す男たち=THE PADDLERがいる。
彼らを突き動かすもの、そして、視線の先にあるものは?
INPUTとOUTPUTという二つのワードから、その行動を探る。

Photo: Yumi Saito  Text: Takuro Watanabe

INPUT
「行動のベースにあるのは、いつも好奇心なんです」

「東京を離れたのは震災の年だから2011年ですね。当時は家族で世田谷に住んでいたのですが、東京には子どもを育てるにあたっての不安な材料が多かったんです。田舎にはモノの取り合いなどのパニックがなかったことや、近所に米も野菜もあって自然がある。そんな環境で子育てをしたいと思って、地元である群馬の桐生に移り住んだんです」

逗子を拠点にして、全国でアパレルショップやオフィスなどの内装を手がける「SMILIES」代表の阿部臣吾さん。ファッション、カルチャー系のショップデザインで注目を集め、湘南エリアでは、鎌倉発のアウトドア・プロダクト「山と道」のショップ『山と道研究所』のインテリアも手がけている。

逗子に暮らして6年になるが、それ以前の3年間は、阿部さんが生まれ育った群馬県の桐生市で暮らしていた。3年というのは、はじめから決めていた。その後暮らす候補地には様々な地方の案があったが、逗子に決定。それは毎春(2020年度はCOVID-19の影響で開催中止)に逗子海岸を舞台に2週間にわたって開催している「逗子海岸映画祭」を運営する、シネマキャラバンのメンバーとの出会いがきっかけだったという。

「静岡・静波海岸のイベントに参加した際に彼らに出会ったんですが、かっこいいことをやってるな、と思いました。その時は逗子がどんな土地か、というのは正直よく知らなかったので、移住先を決めたのは人間ありきだったということですね」

移住のきっかけにもなった「シネマキャラバン」が主宰する「逗子海岸映画祭」には移住後すぐに空間演出メンバーとして参加。すぐに土地の人間と馴染み、入り込んでいけるのは、阿部さんならではの個性と人柄によるものなのだろう。

「自分の行動のベースにあるのは、いつも好奇心なんです。好奇心があることに対してはノックしていくタイプだから、好きだなと思った人たちには近づいていきます。そうすると、その周りにはまたおもしろい人たちがいるんですよね」

これは、どの土地であったとしても、移住組にとってよい手本となるのではないか。阿部さんのような姿勢で土地や人に接していたら、湘南エリアでも時折聞くことがある移住者と地元民の間のトラブルも起こりにくいはずだ。

移住してすぐに「逗子海岸映画祭」、そしてやはり逗子を拠点にしている地縁コミュニティー「SOKKA」の活動を手伝うなど、自身が暮らす土地を豊かにしている活動に積極的に参加していった。↙︎

OUTPUT
「自然のリズムを暮らしに取り入れることができるんです」

ただ単に「暮らしている」のではなく、自分が暮らす土地が持つ魅力を見出し、楽しむか楽しまないかで、その暮らしの豊かさは大きく変わってくるのだろう。

「この春、自宅の庭にサウナを造ったんですが、それも土地の持つポテンシャルから生まれたものだと言えますね。近所の山を歩いている時に、薪になる木がたくさん落ちているのに気づいたことがきっかけですから。あとはステイホームしすぎたせいで、どうしてもサウナに入りたいという熱量に動かされた(笑)」

この思考や姿勢は子どもの頃からずっと変わっていないのだそう。小学生の頃には自宅裏に流れる川にターザンロープを設置したり、ツリーハウスなどを製作。ずっと自分の周囲にあるものを素材としてものづくりをしてきた。そして、アイデアのヒントは自然の中での気づきが多いのだそう。

「学生時代から東京に出て以来、しばらく山から離れていたんですが、地元桐生に戻ったことをきっかけに、また山に入るようになりました。スノーボードにしっかり向き合うことで、自然のリズムを暮らしに取り入れることができたんです。仕事とか社会の情勢ではなくて、自然のリズムが暮らしの中にあったらいいなと常に思っていてます。それは気象を読むことで可能になるんです」↙︎
スノーボードをすることで、冬は気象状況を読み、良雪を狙いながら、自然のリズムを取り入れて暮らしていた。だが、雪のシーズンが終わると、リズムの要素一つが欠けてしまい、居心地の悪さを覚えたのだという。

「それで、あ、海があるなとあらためて気がついて、波乗りを始めることにしたんです。それからは一年中、バランスが良くなりました。雪があって、波があって、仕事があって、家族がいるというのがありがたいですよね。そのどれかに真剣になりすぎると、どれかがが欠けるときもありますけどね(笑)。自分の周りには、そういう風に生きている大人たちが多いんじゃないかと思います」

阿部さんが逗子で出会ったそんな仲間たちと共につくり上げているもののひとつに、主宰チームとして関わっていて、毎年10月に逗子市の池子の森自然公園にて開催される「池子の森の音楽祭」がある。逗子にゆかりのある世代を越えたミュージシャンが出演し、様々なワークショッププログラムを楽しむ人たちで賑わうこのフェスも、少しずつ成長を続けていて、昨年は2,000人の動員となった。

「『池子の森の音楽祭』は、自分の子どもたちが大人になった時にも続いていて欲しいし、一緒にやりたいですね。世代を超えて何十年もやっているパーティが自分の町にあったらいいなと思うんです」

自分の暮らす土地を楽しむ大人たちを見て育った子どもたちには、いい影響があるに違いない。今年で4年目となる「池子の森の音楽祭」は、この秋も開催される。

【イベントデータ】
池子の森の音楽祭
https://ikegomorifes.com
会場:池子の森自然公園(神奈川県逗子市)→こちらの記事をご参考に [CITY GUIDE]
開催日時:2020年10月24日(土)10:00〜20:00、10月25日(日)10:00〜18:00
入場料:各日1,500円(高校生以下無料)

THE PADDLER PROFILE

阿部臣吾

「SMILIES」代表。1977年生まれ。逗子在住。桑沢デザイン研究所 インテリアデザイン科卒業。店舗内装・リノベーションなどを中心に空間造りを行う。