PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

SPORTS&OUTDOOR SUPクルージング -後編- 金子ケニーさん 「初めてのSUPギア選び」

近年、手に入れやすい価格帯のものも続々と登場し、数年前と比較するとスタンドアップパドルボード=SUPギアの選択肢は格段に増えた。だからこそ、揃えるべきギアと正しい選び方のポイントをしっかりと抑えておきたい。
後編では、金子ケニーさんにクルージング用のSUPギア選びについて伺ってみよう。

#003 SUPクルージング -前編-はこちらから

Photos : Yasuma Miura  Text : Kei Ikeda

写真右から14フィート、12フィート6インチのカーボン製レース用ボード、12フィート6インチのインフレータブルボード。どれも見た目以上に軽く、女性一人でも問題なく持ち運べる
——他の海のパドルスポーツと比べると、SUPの魅力とは?
SUPはボードの上に立ち、パドルを使って漕ぎ進むスポーツです。つまり、カヌーやカヤックとの一番の違いは、視点が高いこと。ほんの1mちょっとの違いですが、立つことで水の中が見えるんです。葉山や逗子の海をSUPで漕ぐと、まるで森の中を歩いているように感じるくらい魚や海底がよく見える。漕ぐだけでも楽しめるけれど、波にも乗れるし、キャンプトリップにだって使える。カヤックのいい要素とサーフィンのいい要素の両方を兼ね備えた遊びなんです」

——ボードの種類はどのようなものがあるのですか。
大きく分けて、主に波に乗るため用に設計された「ウェーブ」タイプと、波のない静水を漕ぐ「レース」や「ツーリング」に向くタイプの2つがあります。波のある日が少ない逗子や葉山で使うなら、後者がおすすめです。世界に目を向けてみると、誰でも手軽に始められるレースやツーリング用に乗っている人の割合が、SUP人口全体の9割ほどを占めています」

——長さや素材にも種類があるのでしょうか。
レースでは、ボードの長さは12フィート6インチか14フィートの2つのレギュレーションが設けられるので、この2種類の長さのモデルが多い。幅や厚みはレギュレーションがないので、モデルによってさまざまです。一般的に長さと幅があると安定感が増し、短かくて細いと回転性が高まります。素材はカーボンやファイバーグラスなどの硬い素材を使ったタイプと、「インフレータブル」と呼ばれる空気を入れて膨らませて使うタイプがあります。

——初めての一本を買うならば、どのようなものがおすすめですか。
コンパクトに収納できて、持ち運びも楽なインフレータブルタイプがいいでしょう。まずは、長さは12フィート6インチ、幅は28〜30インチほどのモデルが使いやすいと思います。迷ったら、お店で「クルージングでも使える12フィート6インチのインフレータブル」と伝えてみてください。↙︎
インフレータブルタイプは空気を入れて使う。5分もあれば出艇準備は完了!
こんなにコンパクトに収まるので、マンション住まいでも収納に困らない
レース仕様のボードは、ボードというよりまるで船のようなフォルムをしている/「最初は幅の細いボードではなく、幅が広いオールラウンドなモデルから始めるといいでしょう」
——SUPを始めるためにボード以外に必要なギアはありますか?
ボードとパドル、リーシュコードの3点があれば始められます。中でも、手の延長となるパドルは特に重要なので、初めからそれなりにいいものを使って欲しいですね。目安としては、手を挙げた時に手首と肘の中間くらいの長さを選んで下さい。長さが1cm違うだけで漕いだ感覚は変わります。まずは、長さを調整できるモデルが便利です。目の保護のため、サングラスもかけた方がいいでしょう。

——ライフジャケットは必要ないのですか?
マストではありません。ライフジャケットを着用しているとパドリングの邪魔になったり、落ちてからボードの上に戻ることが難しくなるケースがあります。不安な方は、腰に巻ける膨張式の浮力体を付けましょう。

——ウエアは何を着ればいいのでしょう。
基本的に落ちて濡れない前提なので、夏であればサーフトランクス+Tシャツ、寒い時期はラッシュガード+ロングジョン、ウインドブレーカー+ウエットスーツなどでOKです。滑りやすくなるので、僕は冬もブーツは履きません。ウエットスーツは、肩周りが開いていて漕ぎやすいロングジョンがおすすめです。SUP用に作られたロングジョンなら、サーフィン用よりもさらに肩が動かしやすい設計になっています。

——他にあると便利なギアはありますか。
長時間漕ぐ時は、水分補給ができるようにハイドレーションを背負ったり、エナジージェルを持つこともあります。ハイドレーションパックは、濡れても水が抜けるモデルがいいでしょう。本格的にトレーニングをするなら、心拍数が一目でわかる腕時計があるとトレーニングの効率を一層高められます。↙︎
初めの一本は、軽量なカーボン製でアジャスタブルなパドルがおすすめ
SUP用のロングジョンは、パドルしやすいよう肩甲骨周りが大きく開いている
(写真右から時計回りに)エネルギーを補給するためのパワージェル。濡れてもOKなハイドレーションパック。腰に巻くタイプで邪魔にならない膨張式の浮力体。膝下につけるSUP用リーシュ。漕ぎながら水分補給できるハイドレーションには、発汗で失われるミネラルを補給できる水を入れている
——波があってもなくても、いつもSUPで海に入っているのですか?
もちろん、台風ウネリが入って波があればショートボードにも乗ります。でも、波がない日が多い湘南には、SUPはとても向いている遊びだと思うんです。手軽に海に出て開放感を感じられる手段として、みなさんもSUPを日常に取り入れてみてほしい。きっと日々の生活がもっと豊かになると思います。

——エクササイズとして楽しむ人も増えていると聞きますが、一人で始めてもいいのでしょうか。
初めはショップやスクールでレッスンを受けた方がいいですね。風やウネリの状況判断が自分でできるようになれば、一人で海に出ても問題ないでしょう。ジムでマシンを使った筋力トレーニングをしたり、バランスボールに乗るより、SUPを漕ぐ方がずっといいトレーニングになります。

——この数年で、湘南のSUPシーンはどう変わりましたか?
サーファーとの住み分けもだいぶ進んで、ルールや認識がしっかりしてきたように感じます。特に逗子や葉山では、波に乗るだけじゃなく、クルージングするっていう乗り方が定着してきました。ユーザーの遊び方が上手になってきたのもあるし、教える方の教え方も上手になってきたのではないでしょうか。

——今後、湘南のSUPシーンはどう変わっていくと思いますか。
年々、SUP人口やレースも増えてきていますが、僕の今後の理想は、ヨットハーバーの中でもSUPが出せるようになること。海外では、風やウネリがある日でも、ハーバー内の静水で漕ぐことができる。安全に漕ぎ始められる環境があるので、初めてみたい人に対する間口が広いんです。湘南でもSUPがきっかけになって、より海のパドルスポーツに親しみやすい環境と文化が根付いてほしいと思っています」
トレーニング時は、腕時計で心拍数を確認しながら効率的に負荷をかけていく
レース用のボードは、キャリアさえあれば車に積載することは簡単だ

ENJOY SUP, ENJOY SHONAN !

●KOKUA SUP(葉山)
「SUPレースを中心にレベルアップを目指すパドラーをサポートするため、僕がコーチングを行なっているクラブです。トレーニングプログラムを提供したり、パドルクリニックも行なっています。ウェブからの予約制です」

Shop Data:
KOKUA SUP(コクアSUP)
www.kokuasup.com


●ラ・セーラ葉山(葉山・長者ヶ崎海岸)
「長者ヶ崎のすごく綺麗なロケーションにあって、SUPのレンタルが可能。駐車場は広々だし、海へのアクセスも楽。ボードを持っている人にも使いやすい場所でしょう」

Shop Data:
ラ・セーラ葉山
神奈川県三浦郡葉山町下山口2050
TEL. 046-875-9449
営業時間:10:00-18:00(平日)、9:00-18:00(土日祝)、10:00-17:00(12〜3月)
定休日:木曜日(年末年始、秋季休暇、臨時休業あり)
www.laserahayama.com/club.html


●サニーファニーデイズ(葉山・三ヶ下海岸)
「おしゃれなビーチハウスのような雰囲気のセレクトショップで、ここでもSUPが借りられます。道路一本挟んで海に出られるロケーションは、すごく便利です」

Shop Data:
Sunny Funny Days(サニーファニーデイズ)
神奈川県三浦郡葉山町一色2378-3
TEL. 046-801-3282
営業時間:11:00-17:00(レンタルは10:00-、スクールは9:30-)
定休日:水曜日(12〜3月は+木曜日)
www.sunnyfunnydays.com

PROFILE

金子ケニー

茅ヶ崎生まれ、カリフォルニア育ち。現在は葉山在住。
2013年から本格的にSUPを始める。翌2014年には全日本SUP選手権で初優勝、2017年に二度目の全日本チャンピオンに輝く。2015年からは海外レースにも転戦し始め、2017年の国際サーフィン連盟(ISA)世界選手権は12位の成績を収めた。
主なスポンサーはJP Australia、Trump Wetsuits、ザクロ屋、エアロテック、BRAVO!、自然電力。ちなみに、父は島から島へと渡る挑戦を続けるオーシャンパドラーのデューク金子。弟はミュージシャンとして活躍するマイケル カネコである。