PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FOOD BATON リストランテ シーヴァ 芝先康一さんのイタリア料理

海や山、自然に恵まれた湘南には、季節折々の旬な 食材が集まる。
その食の豊かさにひかれて、この地に暮らす料理人は多い。
食のバトンがつなぐ、湘南のテーブルストーリーに耳を傾けてみよう。
今回、「ビストロ ボナップ」の田口博之さんから、フードバトンを引き継ぐのは、
「リストランテ シーヴァ」の芝先康一さんだ。

「#016 田口博之さんのビストロ料理」はこちらから

Photos : Pero  Text : Paddler

フランス料理とイタリア料理の名店で経験を積んできたオーナーシェフの芝先康一さん。2016年に「リストランテ シーヴァ」をオープン。以来、人気店に
シンプルさの極み。イタリアンの魅力

海を見下ろす丘に軒を連ねる閑静な住宅地、鎌倉・七里ガ浜。その中腹に、地元の住民や観光客に人気の飲食店が集まる一画がある。イタリアンレストラン「リストランテ シーヴァ」も、その一軒だ。ガラス張りの店内には太陽の光が差し込み、オーシャンサイドらしい明るい空気が漂う。

まずは前菜を味わった。「うむ」と思わずうなる。「カマスとフォアグラ」というシンプルなネーミングながら、繊細かつ美しい見た目。“淡”と“濃”という両極な味わいながら、カマスを軽く燻製させることで、フォアグラの滋味に負けない調和が口の中に生まれる。周りに散らされているのはブラックペッパーかと思いきや、オーブンしたイカスミとトマト。味わいに彩りを添える。

パスタはパッケリ。小麦粉と水だけで作られた肉厚の麺に、太刀魚と野生のういきょうのソースが絶妙に絡み合う。複雑で深みのある味わいに、フォークとワインが進む。カジュアルな店内の雰囲気はトラットリアに近いが、そのメニューはまさに高級なリストランテに勝るとも劣らない逸品ぞろいだ。

料理を手がけるのはオーナーシェフの芝先康一さん。弱冠37歳ながら、この道18年のキャリアを持つ。高校生の時に、フランス料理の大家・三國清三氏のドキュメンタリー番組をテレビで観たことをきっかけに料理人の道へ。その後、調理師専門学校を経て念願の「ミクニ マルノウチ」に。3か月半で同期の20人の半分が辞めてしまうという厳しい下積みを5年間積んで、ホテルへ。そして、20代後半に単身イタリアへ渡った。フレンチの料理人としての王道を歩んできたのに、なぜイタリアへ?

「イタリアンは、フレンチをやっている人間からすると簡単なことをしている感じがするんです。フレンチはコンソメを取ったりソースを煮詰めたりと複雑な工程がいっぱいあり、一見難しい。ですが、イタリアンは、パスタ一つとって、麺が茹で上がる数分の間で、瞬時に判断してソースをよい状態まで持っていかないといけない。シンプルだからこそ難しい。そんな職人技っぽいところに、すごく魅力を感じたんです」

何のつてもなく、自らの腕を頼りにイタリアへ渡った芝先さんだったが、その実力を買われてイタリア北部、食通の地とされるエミリア=ロマーニャ州の一つ星のリストランテで働くことに。

「『明日、何を覚えられるのかな』というワクワクの毎日でした。毎月100ユーロずつ給料が上がっていったのも、うれしかったですね」

シェフが不在の時は厨房を任されるまでに認められたが、ビザと身内の事情で帰国することに。

そして、国内でさらなる修業を積んで、3年前に自らの店をオープンした。この地を選んだのは、先輩シェフの縁故に加えて、料理人として湘南の実りの良さに魅かれたからだ。

「魚介も野菜も、三浦半島産を中心に使っています。あの半島はすごく優秀で、イタリアと地形がよく似ていて、おいしい食材にあふれている。魚種は豊富だし、野菜は一つ一つの香りも強いんですよ」↙︎
窓ガラスから太陽の光が注ぎ込む明るい店内。オープンテラスで食事を楽しむことも
リストランテながら、店内にはカジュアルな雰囲気が漂う。「Tシャツ、短パン、ビーサンでもOKです。赤ちゃん連れのご家族も歓迎です」
「自分がイタリアで経験した驚きや感動を追体験していただきたい」と、メニューはシェフのお任せのみ。苦手な食材やアレルギーの有無を事前に伝えれば、個別に対応してくれるので安心。ランチは3,000円、ディナーは4,750円と7,500円の2コース
イタリア料理から芝先料理へ

「リストランテ シーヴァ」で供される料理はすべてお任せのコースだ。芝先さんが、自らが食べたいもの作りたいものを、その日の旬の食材と対面してメニューを決める。

「アラカルトだと、自分が想像のつくメニューしかチョイスしないことがみなさん多いんです。ですが、イタリアにはまだまだ日本人が知らない料理がいっぱいあるんです。それをコースに盛り込むことで、『あっ、おもしろい』、『こんな料理があるんだ』、『こんな味なんだ』と驚きと感動を経験してほしいんです。自分が実際にイタリアで感じてきた驚きを、追体験してもらいたいんですよ」

とは言え、そのメニューは伝統的なイタリア料理の枠組みを超えて、芝先さんのセンスにより昇華されている。

「“イタリア料理”というよりは、“芝先の料理”を作りたいと思っています。自分の育ってきた環境や修業先とか、僕のアイデンティティがないと作れない料理を手がけていきたいんです。だから『イタリア料理を食べにくる』よりも『僕が何かしらいろんなものを感じ取って作る料理を食べに来たいな』というお客さんにいらっしゃってもらえたら」

今やそんな芝先さんの思いを受けて、店には地元はもちろん都内を始め遠方より足を運ぶ客が後を絶たない。

「リストランテへ行く時はジャケットを羽織ったりとフォーマルじゃないですか。ここはビーサンでも短パンでもTシャツでもOKです。気軽に楽しんでもらえたら」

カジュアルながらセンスを兼ね備えた、実に湘南らしい店だ。
ワインもイタリア産を中心に充実。ディナータイムは料理に合わせてのグラスでのペアリングがおすすめ
イタリアの一つ星レストランで修行した芝先さん。イタリア料理をベースにしながらも、独自の味をレシピに落とし込む
「肩肘張らずにお気軽にいらして下さい。『こういうスタイルのイタリアンもあるんだな』と楽しんでいただけたら、うれしいですね」
WHERE THE NEXT?
芝先さんオススメの一軒は?

フェリーチェ(稲村ガ崎)

「イタリアの店で出てくるような料理です。食材もイタリアから取り寄せています。『あっ、イタリアってこういう料理で、こういう味だったよな』と、原点に帰れます」(芝先)
リストランテ シーヴァ
神奈川県鎌倉市七里ガ浜東3-1-14 [MAP]
TEL. 0467-37-8411
OPEN. 11:30~13:30 (L.O)/18:00~20:30 (L.O)

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