PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FOOD BATON ブーランジェリー・ヤマシタ 山下雄作さんのパン
海や山、自然に恵まれた湘南には、季節折々の旬な 食材が集まる。
その食の豊かさにひかれて、この地に暮らす男達は多い。
食の達人から達人へとバトンをつなぐ湘南のテーブルスートリー。
今回、カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュの堀内隆志さんから、フードバトンを引き継ぐのは、
ブーランジェリー・ヤマシタの山下雄作さんだ。
「#001 カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ 堀内隆志さんのコーヒー」はこちらから
Photos : Pero Text : Paddler
二宮町、隠れた人気ベーカリー
海と山そして清流に恵まれた、湘南の中でも自然豊かな二宮。お隣の大磯や小田原などと比べてこれと言った観光名所も少なく、地元の人達が地に足を着けてのどかに暮らしている。だが、この小さな町に湘南はもちろん東京のパン好きからも人気を呼んでいる評判のベーカリーがある。「ブーランジェリー・ヤマシタ」だ。
クルマの往来が激しい幹線道路から昔ながらの旧道に入ると、パンが焼けるふくよかな空気が漂ってくる。小麦の香ばしさ、濃厚なバターの匂いが鼻腔の奥をくすぐり、食欲をむくむくとかきたてる。
その香りに引き寄せられるように、古民家を改築したこじんまりとした店に、次々と客が引き寄せられていく。棚にはテーブルパンからペストリーまで、30種類ものパンが日々並ぶ。店の裏に併設されたイートインができるカフェで、パンをほおばってみる。噛むほどに口の中にパンの滋味があふれる。決して華美ではないが、素朴でやさしい味。思わず口元がゆるむ。
人生の崖っぷちから、パンを
店の厨房で黙々とパン生地をこねているのが、オーナーの山下雄作さんだ。このパン職人だが変わった経歴の持ち主だ。高校卒業後、デンマークへ留学、帰国後、縁があって北欧発の高級家具メーカーに勤めた。
「特に家具に興味があったわけではなく、デンマーク語を使える仕事ということで入社しました。人手も少なかったので、実力も経験もないのに店長になってしまいました」
やがて結婚、子どもも生まれ、自分の家族ができた。仕事も順調で、順風満帆な生活のように感じられた。だが、当時は住まいがあった茅ヶ崎と東京の往復だけの暮らし。仕事が終われば飲みに行き、家族と一緒の時間はほとんどなかった。そんな生活を10年も続けていたが、知人からの忠告が転機になる。
「本当はもっとしたいことや大事にしたいものがあるのでは? それを見ないふりして生きていませんか? その生き方を続けると周りの人が苦しみますよ」↙︎
海と山そして清流に恵まれた、湘南の中でも自然豊かな二宮。お隣の大磯や小田原などと比べてこれと言った観光名所も少なく、地元の人達が地に足を着けてのどかに暮らしている。だが、この小さな町に湘南はもちろん東京のパン好きからも人気を呼んでいる評判のベーカリーがある。「ブーランジェリー・ヤマシタ」だ。
クルマの往来が激しい幹線道路から昔ながらの旧道に入ると、パンが焼けるふくよかな空気が漂ってくる。小麦の香ばしさ、濃厚なバターの匂いが鼻腔の奥をくすぐり、食欲をむくむくとかきたてる。
その香りに引き寄せられるように、古民家を改築したこじんまりとした店に、次々と客が引き寄せられていく。棚にはテーブルパンからペストリーまで、30種類ものパンが日々並ぶ。店の裏に併設されたイートインができるカフェで、パンをほおばってみる。噛むほどに口の中にパンの滋味があふれる。決して華美ではないが、素朴でやさしい味。思わず口元がゆるむ。
人生の崖っぷちから、パンを
店の厨房で黙々とパン生地をこねているのが、オーナーの山下雄作さんだ。このパン職人だが変わった経歴の持ち主だ。高校卒業後、デンマークへ留学、帰国後、縁があって北欧発の高級家具メーカーに勤めた。
「特に家具に興味があったわけではなく、デンマーク語を使える仕事ということで入社しました。人手も少なかったので、実力も経験もないのに店長になってしまいました」
やがて結婚、子どもも生まれ、自分の家族ができた。仕事も順調で、順風満帆な生活のように感じられた。だが、当時は住まいがあった茅ヶ崎と東京の往復だけの暮らし。仕事が終われば飲みに行き、家族と一緒の時間はほとんどなかった。そんな生活を10年も続けていたが、知人からの忠告が転機になる。
「本当はもっとしたいことや大事にしたいものがあるのでは? それを見ないふりして生きていませんか? その生き方を続けると周りの人が苦しみますよ」↙︎

デンマーク留学から高級家具店に勤務。30歳前半でパン職人の道へ進んだ山下雄作さん
古民家をリフォームした店内には、毎日30種類以上のパンが並ぶ。定番はバケット(270円)、一番人気はシナモンロール(250円)。購入したパンは奥のカフェで食べることも
内心、自分の生き方に疑問を抱いていた山下さんは、その言葉にグサッときた。それが決め手となり、仕事を辞めそれまでの生活をバッサリと切り捨てた。とは言え、新しい活路が決まっているわけではなく、「どうやって生きていこうか」と悶々と考える日々が1年も続いた。収入は途絶え、蓄えも底をつきていく…。
「本当に貧乏でしたね。それまでの自分は、都会で働きたいとか高級家具屋で働くのがステータスとか、自分を満たすために生きていた。これからは人のために生きていきたい。そう考えていた時に、子どもを見ると毎日元気に食べている。それなら、食に関わる仕事はどうだろうかと。外食産業ではなくて日常の食ですね。自分の手でモノを作りたいという欲求がずっとあり、本当に地を這うようにして人のためにできることをやろうとイメージをした時に、そこにあったのが主食となるパンでした」
当然のことながら、それまでパン作りの経験はなし。既に年齢は30代前半、家族を抱える身だから専門学校で学ぶ余裕もない。そこで平塚のベーカリーに修行へ。
「修行といっても、ただのアルバイトですよ。3年で身につかなかったら辞めようと思っていました」
それから2年10カ月後、「ブーランジェリー・ヤマシタ」をオープンさせた。まさしく「人生の崖っぷち」からのリスタートだった。
小さな奇跡が紡ぐ、パン
取材中も、ひっきりなしに客がやってきて人足は途絶えない。店頭に立ち気を配る奥さんの房江さんも実に忙しそうだ。当日焼いたパンは、ほぼ毎日完売。なぜ山下さんのパンは、こうも人を惹きつけるのだろう? 「正直、本当にわからないですね」とはにかむ山下さん。「パンの実力でいったら全然だと思っているので」と謙遜するが、人生の機微を知った人間ならではの思いがパン作りにも生きている。
「できるだけ素朴でありたいと思っています。やはりパンは日常のものなので値段もそんなに高くない方がいい。東京みたいに1個のパンが400円、500円するような価格設定には絶対したくない。日常の食として買えるものでなくては。だからそのギリギリのラインでできるだけいい材料を使おうと思っています」
基本は粉、水、塩、酵母の原材料だけ、余計な添加物をできるだけ入れずにシンプルに。日々使う酵母は愛着のあるデンマークの友人から譲ってもらったリンゴからおこしている。地産地消ではないが、二宮の名産である落花生をペストリーの生地に織り込むなどの工夫も。
「とにかく素人みたいな僕が作ったパンを、お客さんがこうして買いに来てくれてることが奇跡のようだと思ってます。その毎日があることが感謝です」
朝3時に起床して、夜9時には床につく多忙な日々を送る。しかし、今は家族も身近に暮らすので、「親が働いてる姿を見せることができる」ことがうれしい。
「とにかくブーランジェリー・ヤマシタに来てもらった人の心がほっと暖まるような店でありたい。自分の生き方に自信を持たせてくださってるのは、お客さんが来てくださっていることですから」
「本当に貧乏でしたね。それまでの自分は、都会で働きたいとか高級家具屋で働くのがステータスとか、自分を満たすために生きていた。これからは人のために生きていきたい。そう考えていた時に、子どもを見ると毎日元気に食べている。それなら、食に関わる仕事はどうだろうかと。外食産業ではなくて日常の食ですね。自分の手でモノを作りたいという欲求がずっとあり、本当に地を這うようにして人のためにできることをやろうとイメージをした時に、そこにあったのが主食となるパンでした」
当然のことながら、それまでパン作りの経験はなし。既に年齢は30代前半、家族を抱える身だから専門学校で学ぶ余裕もない。そこで平塚のベーカリーに修行へ。
「修行といっても、ただのアルバイトですよ。3年で身につかなかったら辞めようと思っていました」
それから2年10カ月後、「ブーランジェリー・ヤマシタ」をオープンさせた。まさしく「人生の崖っぷち」からのリスタートだった。
小さな奇跡が紡ぐ、パン
取材中も、ひっきりなしに客がやってきて人足は途絶えない。店頭に立ち気を配る奥さんの房江さんも実に忙しそうだ。当日焼いたパンは、ほぼ毎日完売。なぜ山下さんのパンは、こうも人を惹きつけるのだろう? 「正直、本当にわからないですね」とはにかむ山下さん。「パンの実力でいったら全然だと思っているので」と謙遜するが、人生の機微を知った人間ならではの思いがパン作りにも生きている。
「できるだけ素朴でありたいと思っています。やはりパンは日常のものなので値段もそんなに高くない方がいい。東京みたいに1個のパンが400円、500円するような価格設定には絶対したくない。日常の食として買えるものでなくては。だからそのギリギリのラインでできるだけいい材料を使おうと思っています」
基本は粉、水、塩、酵母の原材料だけ、余計な添加物をできるだけ入れずにシンプルに。日々使う酵母は愛着のあるデンマークの友人から譲ってもらったリンゴからおこしている。地産地消ではないが、二宮の名産である落花生をペストリーの生地に織り込むなどの工夫も。
「とにかく素人みたいな僕が作ったパンを、お客さんがこうして買いに来てくれてることが奇跡のようだと思ってます。その毎日があることが感謝です」
朝3時に起床して、夜9時には床につく多忙な日々を送る。しかし、今は家族も身近に暮らすので、「親が働いてる姿を見せることができる」ことがうれしい。
「とにかくブーランジェリー・ヤマシタに来てもらった人の心がほっと暖まるような店でありたい。自分の生き方に自信を持たせてくださってるのは、お客さんが来てくださっていることですから」

奥さんの房江さんと二人で始めた店も、今では10名のスタッフを抱える大所帯に

カフェはギャラリーにも。馴染みのアーティストの発表の場に。この日は古本市

房江さんとともに店の外で。「この店に来てくださったお客さんが、パンを喜んでもらったり店員と触れ合ったりして、ちょっとでも幸せな気持ちになってくれたらうれしいですね」
WHERE THE NEXT?
山下さんオススメの一軒は?
ながや(小田原市早川)
「店主の長屋さんが手がける和食、お蕎麦から、人柄が伝わってきますね。料理の誠実さにただただ感動します。初めてお店にうかがったのは、体調を崩して箱根の温泉へ湯治した帰り。ひと口ひと口から、優しさが体にしみてきました」(山下)
山下さんオススメの一軒は?
ながや(小田原市早川)
「店主の長屋さんが手がける和食、お蕎麦から、人柄が伝わってきますね。料理の誠実さにただただ感動します。初めてお店にうかがったのは、体調を崩して箱根の温泉へ湯治した帰り。ひと口ひと口から、優しさが体にしみてきました」(山下)

ブーランジェリーヤマシタ
Boulangerie Yamashita
Boulangerie Yamashita