PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FOOD BATON Baton01 カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ 堀内隆志さんのコーヒー

海や山、自然に恵まれた湘南には、季節折々の旬な食材が集まる。
その食の豊かさにひかれて、この地に暮らす男達は多い。
食のバトンがつなぐ、湘南のテーブルストーリーが今、始まる。
Photos : Tadashi Okochi  Text : Kaori Akazawa
湘南では言わずと知れた鎌倉の名店「カフェ ヴィヴモン ディモンシュ」。マスターの堀内隆志さんが小町通りから一本入ったここにお店をオープンしたのは、今から23年前、1994年のこと。美術作家の永井宏さんの勧めもあり“好きなことをかたちにする”、“居場所をつくる”という想いも込め、カフェをオープンした。それから今日まで、奥さまの千佳さんをはじめ、信頼できるスタッフと共に店を切り盛りする日々が続いている。そんな堀内マスターにとってコーヒーとは何なのだろうか……。

「いきなり核心をついてきますね〜。そうだなぁ、僕はずっとマスターになりたかったんです。だから、コーヒーはもちろんだけれど、自分にとってカフェは、人生の軸ですね。コーヒーも音楽も、そこから派生して、興味が深まっていったものですから」

2009年、それまで焙煎をお願いしていた師と仰ぐ、「斎藤珈琲」の斎藤さんが病に伏したことから、自分自身で焙煎する決意をした。
「焙煎に関しては斎藤さんのことがきっかけのひとつではありますが、自分でできる表現をしないと、と思ったこともあります。当たり前ですが、そう簡単には思ったようにいかず、今も悪戦苦闘していますが、それもまたいいんですよ。なんでもすんなりだったら、おもしろくないですよね。季節や豆の状態を見つつ、コーヒー豆と格闘し、その時々で勝負していくというか。そういうところも焙煎のおもしろさです。自分ができることをと思い、考えながら動いていると、ほんと、人生短すぎて足りないくらいです」

焙煎をするようになって友人やお客さんたちからお土産でその土地のコーヒー豆をいただくことも多くなり、自分が焙煎した豆が果たしてどんなふうにそれぞれの家で再現されているのか、気になるようになった、と堀内マスター。以前から集めていたコーヒーミル(自宅には何と225台ものミルが飾ってあるのだそう)をはじめ、自宅でコーヒーを愉しんでもらうための道具にも、より力を入れるようになった。お店に並ぶ道具は、ミルはもちろん、ポット、ドリッパー、そしてマグカップに至るまで余念がない。道具を買うまではまだ、という人のためにオリジナルのドリップパックも用意されていた。↙︎
お店では堀内マスターが焙煎した豆の購入もできる。ハンドドリップに必要な道具も揃っているので、初心者はマスターに相談してみて
(左)2016年にはホンジュラスへ、2017年にはグァテマラへと豆の買い付けに出かけたマスター。今年の秋にはそのグァテマラの豆が発売予定。秋にオススメ(右)マスターの似顔絵、愛犬ミサワ、大仏など、イラストやメッセージがプリントされたオリジナルマグカップ1296円(税込)。豆と一緒にプレゼントしても
焙煎を始めてから2年後の2011年3月11日、東日本大震災を機に、堀内マスターはさらに気持ちを新たに店に立つことを決めた。
「いつ、何が起こるかわからないってこともあったし、この年、長年お世話になっていた先輩が亡くなったり、といろいろあり、これからはもっと濃く生きていこうと思いまして。コーヒーも生豆を選ぶところから始まり、焙煎をし、コーヒーを淹れるところまで自分の手で送り出したいと思ったんです。自分の仕事として責任が持てるし、飲んでいただいたお客さんにも味わいや想いが伝わるかな、と思って。毎日一杯ずつ、注文が入ってから豆をひき、ドリップしています。それまではスタッフがドリップしていた時期もあったんですが、震災以降は自分で淹れるようになりました。そのこともあってか、右手の調子が悪くなってしまって、今、左手で淹れる練習をしているんですよ」

目を細め、柔らかな笑顔で話してくれた堀内マスター。さらりと話してくれたが、夜中に焙煎をし、昼間はお店に立ってすべてのコーヒーを自身で淹れる…決してラクなことではない。けれどもおいしい一杯を求めてやってきてくれるお客さんのため、もとい、マスターになりたかった自分のためでもある、と堀内さん。

お店ではさまざまな人たちが、それぞれに時間を過ごし、空間を共有している。60〜70代の方々もいれば、かつて、子どもだった子が大人になり、今は自分の子どもを連れてやって来てくれたり。遠足でやって来た小学生や、ご近所の常連さんたちも。それをうれしそうにニコニコとカウンター越しに眺めては、またポットの先へと目線を戻す堀内マスター。渾身の一杯を求めて来るのはもちろん、この笑顔に会いに来る人も少なくないだろう。

「20代、30代と、がむしゃらにやってきた、好きなことをかたちにするための日々。その時はいつかは人が死ぬなんてこと、考えもしなかった。でも今年50歳を迎え、半世紀生きてきて“全力でやらないと”と、ますます自分に言い聞かせています。ここをわざわざ選んで来てくれるんだから『あぁ、おいしかった』『来てよかった』と、思ってもらいたい。そのためにはどうしたらいいか、自分と葛藤する日々です」
WHERE THE NEXT?
堀内さんオススメの一軒は?

ブーランジェリー ヤマシタ(二宮町)

「初めてブーランジェリー ヤマシタさんにうかがったのは、吾妻山公園から満開の菜の花越しに見える富士山を見に行った冬の朝でした。カフェでいただいたフレンチトースト&スープのセットで冷え切った身体が温まりました。光の入り方が美しくインテリアと静かに流れている音楽も素敵でした。オーナー山下さんの仕事へ向き合う姿勢が店内の隅々までいきわたっています」(堀内)
カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ
cafe vivement dimanche
鎌倉市小町2-1-5 桜井ビル 1F
TEL.0467-23-9952
OPEN. 8:00 ~ 19:00 (~11:00はセルフ形式)
CLOSE. 第2・4水曜、木曜
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