PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FEATURE この町に住みたい : 二宮町
第3話・自分らしい生き方が仕事に、幸せに
案内人 Mr. 宮戸 淳 | 太平洋不動産

今、二宮がなんだか気になる。湘南内外からの移住者が続々と増えている。
こだわりのパン職人、世界で活躍する画家や写真家、東京で力を蓄えた料理人……
彼らの背景を探ると、一つの答えにたどり着く。
導き人が「太平洋不動産」2代目の宮戸 淳さんだということ。
二宮に生まれ、この土地を愛し寄り添う彼は、不動産屋という領域を超え、
無邪気なまでにこの町の魅力と可能性を発信し続けている。
時代、文化、ヒトの新旧を心地よく結び、二宮のニュースタンダードを紡ぐ人、
宮戸さんに4話に渡りこの町の魅力を案内してもらおう。

Photos : Koki Saito  Text : Paddler

宮戸さんに導かれ、この町で快適な住まいを手の入れた移住者たちは、個性的でクリエイティブな人たちばかり。外界の価値観に流されることなく、自分らしさとその “好き“を貫き、それをここで商売にして楽しむ人や、この町を拠点に都内や世界を舞台に活躍する人が多い。どうやらこの町には、素の自分にもどれ、素直に自分らしさにチャレンジできる磁場があるようだ。
「二宮らしさを感じる暮らし方をされているご夫婦がいるんですよ」という宮戸さんの声のもと、そんな移住者のひとり、2年前に東京からやってきた画家、森口裕二さんと人形作家の裕華子さんご夫妻を訪れた。
森口裕二さんといえば、日本画と漫画を融合させたようなスタイルで、独特の妖艶な絵を描く画家だ。日本的ノスタルジックを感じさせる精巧な画が、アジアを中心にフランスやアメリカなどの海外でも高く評価されている。訪れた先は、トマトやキュウリが熟れる菜園のある庭が印象的な、昭和に遡る平屋造りの一軒家だった。

湘南のイメージを覆した二宮町

——森口さんが二宮町に越してこられてた動機は? この町を選んだ決定打は何だったのですか?

Mr. 森口 :
僕たち夫婦は、個展も作品発注も東京が多く、今でも都内での活動がメインです。でも、せっかくだったら、仕事も生活も楽しみたい、僕の身の丈の暮らしをしたいなと思ってきました。それが叶う場所を常に探してたんです。でも、実は湘南には興味がなかったんですよ。東京近郊、那須や三浦半島、長野の安曇野の方で家探しをしていました。というのも、固定観念があったんです。「湘南」ってサーフィンとかビーチライフのイメージが強くって。僕はサーフィンもしないし、平凡に暮らしたかったんです。でも、昭和の建物で平屋を探していたこともあり、偶然に大磯でいい物件を見つけたんですよ。それが太平洋不動産のサイトだったんです。

Mr. 宮戸:
僕は当時、彼の担当ではなかったのですが、探されていたタイミングで、この家の最新情報が入って。一般公開する前に森口さんにご紹介したんです。

Mr. 森口 :
それで、その家を見にきて、即決しました(笑)
僕らにとって、その時が二宮への初訪問だったんですが、駅の南口に降り立ったら、いい感じで寂れてて、それがすごく良くて。家にはまだ人が住んでましたが、いいじゃん! と。何と言うんですかね、雰囲気がいいんですよ、変に格好つけていなくて。「普通」っていうやつです。

そして、何よりもこの町を好きになったのは「挨拶」でした。信号待ちしてたりすると、登下校している小学生たちが挨拶をしてくるんですよ。「あ〜、これええやん」って感じなんです。ゴミ出しでお会いするご近所さんや買い物ですれ違う人たちも、引っ越してきて間もない僕らと気持ちよく挨拶を交わしてくれる。そんな生活の中のちょっとした幸せが、当り前にあるんです。そんな当たり前が嬉しい。二宮にはこれという”びっくり” な物はないけれど、「普通という生活の中の贅沢」があると感じましたね。

——宮戸さんは、森口さんをノックアウトするズバリな物件をご紹介できたのですね!

Mr. 宮戸:
自分の中でも、この家は特別な家だと感じていたんです。絶対に素敵な家になると。なので、次の住人とは会いたい! と思っていたんです。

Mr. 森口 :
かなり思い入れがあった家だったらしく、担当じゃないのに、わざわざその思いを僕らに伝えにきたんですよ!

——どんな思いだったのですか?

Mr. 宮戸:
手を加えれば、どんなにいい物件になるか、楽しめるか、ということですね。森口さんご夫妻は、とてもクリエイティブな方だと感じていたので、気になっていました。↙︎
小さな家から世界へ発信するモノづくり

——森口さんは「仕事」も「暮らし」も楽しみたかった、とおっしゃっていましたが、こちらにきて何か変わりましたか?

Mr. 森口 :
仕事上、出向く東京には、近すぎず、遠すぎず、その距離感がとても心地いいんです。ここには、豪華なものはないけれど、必要なものは手に取れる場所にあります。そして、小田原や大磯など、個性のある近郊の街をつまみ食いもできる。この「いい距離感」に満足しています。車窓に映る旅情感ある風景や、「おぼろ月夜」が流れる二宮駅のホームに立つと、この町に暮らす幸せを感じるんですよね。

仕事においては、できるだけ変わらないようにしてます。こっちにきて「絵が変わったな」なんて言われたくないんです。ここに来たのは “スローライフ” とか “ロハス” とかではなく、僕ら自身の生活のペースのため。これまで住んできた町では、「家に住む」という感覚で、家に引き込んで仕事をしていました。でも二宮での生活は、「町に住む」という感じで、それが面白いんです。

庭を持ち、畑を始めたことは、これまでと違う大きな変化ですね。今までは無理でした。だって「土」がありませんからね。僕は四国の田舎の出身(徳島県)なので、やはり「土」と「山」が見える生活は、精神的な安定をもたらしてくれます。それも引越しの理由の一つでしたね。

——森口さん自身が豊かになったと感じられていることは何ですか?

Mr. 森口 :
僕は別に金持ちではないけれど、ここにきてより一層生活の贅沢さを感じられるようになりました。「時間」や「食べ物」においても、それらをとても身近に感じられます。野菜も魚も、地産ものがとてもおいしいですし、自転車で海沿いや山を走るだけで、旅先でレンタルサイクリングしている感覚です。それらが、日常生活の中に多少なりとも必ず組み込まれる、っていう贅沢を感じているんです。晩酌用のビールを買って海になんて寄ったら、そのまま開けてしまいます(笑)。

日常の中の贅沢かな。側から見たら、贅沢とは思わないかもですが、僕には精神的に贅沢なことなんです。「すごくいい!」と叫びたいというのとは違って、「ええな〜」と思えるいい時間が流れています。僕らは、二宮のこの小さな家から世界に自分たちのモノづくりを発信していければと思っています。↙︎
自宅一室のアトリエで、描きおろしのペン画作業に集中する森口裕二さん
昭和に遡る平屋造りの一軒家

——森口さんご夫妻の個性とこの家の昭和レトロなムードが見事になじんでいますよね。新鮮なノスタルジーって感じでしょうか。宮戸さんが言う「二宮らしさを感じる暮らし」を実感します。新旧が心地よく同居し、自然を感じ、自分らしい軸がある暮らし。

Mr. 宮戸:
この物件の大家さんはご理解ある方で、住人に自由に利用させてくれるという物件でした。森口さん夫妻は、大リフォームこそしませんでしたが、住みやすいように手を加え、家はグレードアップして蘇りましたね。

Mr. 森口 :
僕らはラッキーでしたね。入居時、ここにあったのは畳だけでした。家具はすべて持ち込み、あとは棚をつくり、庭に芝をひき、畑をつくりました。この家に残るような、今できない技術を持つ昔の職人さんによる意匠は、受け継いで行くことが大切だと思っています。

——歴史や風土にリスペクトしながら、自分のライフスタイルに合わせて自由に家に手を加えられる賃貸物件って珍しいし、嬉しいですよね。

Mr. 森口 :
住むストレスが減りますね。

Mr. 宮戸:
そうなんですよね。なので無理にリフォームをして貸そうとする大家さんには、お金をかけず、住人に好きなようにやらせる方がいいのでは? と提案しています。でも最近は、実例が増えてきたせいで、共感してくれる大家さんが増えてきました。

——将来、森口さんのように、この町を拠点にしながらグローバルに活躍する素敵な方々が二宮に増えてゆくといいですね。

Mr. 宮戸:
そう思う一方、この町の良さがあまり知られていないことに居心地の良さを感じている住人たちもいるんです。この土地の本質的な個性と豊かさを共感できる人たちが自然と集まり、コミュニティが広がるといいなと感じています。そのため、僕も情報発信の仕方もよく考えていきたいと思っています。不動産会社次第で「町」って変わってしまうと思うんです。

Mr. 森口 :
二宮に巨大なスターバックスなどができてしまったら、もう僕は二宮を出ていくよ(笑)

Mr. 宮戸:
今、二宮は、自然とこの町らしい発展に向け前進しているように思います。そのための活動をする人たちもこの町にはたくさんいるんです。かつてはそうじゃなかった。今、多くのポジティブなコミュニティができていて、みんな二宮を楽しんでいます。
それに、この町では出かけられる場所も限られているので、どこかに行けば誰かに会う、といった感じです。自然に仲良くなっていく。『マルシェ』や『たびくま』といった二宮恒例のイベントに行けば、みんなが大集合しちゃいますよ。

Mr. 森口 :
みんなそれぞれに年齢も仕事も、性格も趣味も、違う人ばかりですが、「二宮町に住んでいる」ってことが大きいのでしょう。二宮の価値観を分かって住んでいる者同士って、何か繋がっている感じがしますね。

森口裕二さんのウェブサイト
http://moriguchiyuji.com/
裕華子さんのウェブサイト
http://www.suzuranmarchi.com

次回、第4話では、二宮町の新旧の住人たちが繰り広げる、アットホーム&グローバルなコミュニティイベントについてご紹介します。
室内では、70年代の扇風機やテレビ、和ダンスやちゃぶ台といったレトロな調度品と、森口さんの作品が見事になじむ

二宮を拠点に活躍するクリエイティブたち
Photos by Mr. Jun Miyato

①写真家、八幡 宏さん。二宮町出身、東京を拠点に写真家として活躍したのち、築50年の古民家との出会いをきっかけにUターン。25年ぶりに戻った二宮が、面白くて仕方ないという。②「yggpranks」を主宰するアーティスト、向川 康樹さん。二宮を拠点に、ひょうたんを種から栽培し、そのひょうたんでランプをつくる。イベントやワークショップでも人気だ。「海のみえるいたずら工房」と称した住まいは相模湾を眺める一軒家。
③家具工場「WEND」運営、家具職人の櫻井 智和さん。大阪でのキャリアを経、新天地に選んだのは、二宮の住宅街にある元スーパー「コープ」の跡地。そのアトリエ兼自宅は、彼の高いセンスと真摯な家具づくりの姿勢が凝縮。 ④「旅花」を運営する岩瀬 俊彦さん、ともこさんご夫妻。JR二宮駅南口近く、古い空き店舗をセルフリノベーションした場所で、炭火自家焙煎コーヒー店と数々のイベントのプロデュースを手がける。

PROFILE

宮戸 淳 Jun Miyato

「太平洋不動産」店長、宅地建物取引士

不動産企業でのキャリアを経、父・宮戸慎一氏が二宮町で創業した「太平洋不動産」に入社。彼による「太平洋不動産」公式サイトやSNS、ブログでの情報発信が好評。中でも、独自の視点とオピニオンたっぷりに物件と町の魅力を発信する「くらしの情報」が人気だ。古民家や古い空き家など、ポテンシャルのある物件から、それらを再生させ暮らす魅力的な住人、興味深いイベントやスポットまで、リアルな二宮の今を紹介している。店長のブログ、「ハッピーにのみやライフ」https://ninomiya-life.comでは、公私ともに町のために精力的に活動する彼の姿が。

太平洋不動産
神奈川県中郡二宮町二宮167-3
Tel. 0463-73-3377
公式サイト https://taiheiyou-realestate.com