THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介

THE PADDLER | 036 Mr.Yudai Fukui 「BROTURES」「DOGGY BRO.」代表
福井雄大さん | 辻堂

湘南には、自分らしく人生を切り拓くために漕ぎ出す男たち=THE PADDLERがいる。
彼らを突き動かすもの、そして、視線の先にあるものは?
INPUTとOUTPUTという二つのワードから、その行動を探る。

Photo: Yumi Saito  Text: Takuro Watanabe

INPUT
「持っている夢が明確であればあるほど、共感できる人が多くなるのだと信じています」

「ピストバイクって本当におもしろいんですよ。100年前のバイクに最新のパーツを付けたりもできますし、とにかく自由な乗り物なんです」

「BROTURES」というピストバイク専門店のほか、ピストバイクのブランドも国内外で展開する福井雄大さん。彼がこの日乗ってきたバイクについて触れると、本当にうれしそうに話しだしてくれた。聞いているうちにピストバイクに興味を持ってしまうのは、福井さんが心の底から楽しんでいることが伝わってくるからだ。

「およそ130年の歴史があるピストバイクを、僕たちの力で22世紀まで残せたらいいなと思って始めたのが10年前。20歳の頃でした」

高校生まで過ごした長野を離れ、大学進学でやって来た東京でピストバイクを知った。ピストバイクとは、固定ギヤのトラックレーサーのことで、アメリカのニューヨークやサンフランシスコなどの大都市で独自の文化を築いているバイク・メッセンジャーたちに使われていたことから、2000年代中頃から世界中で、一般にも広がった自転車のことだ。

20歳の時に訪れたニューヨークで、メッセンジャーとピストバイクのカルチャーに衝撃を受けたこと、そして、同時期に東京で経験したあることがきっかけとなり、日本にピストバイク・カルチャーを広げようと思ったのだそう。

「地元が長野の白樺湖なんです。都会で働く人たちが癒しを求めて来る場所ですね。実家がペンションをやっているので、東京の人たちが来ては一緒にスキーをしたりして、よく東京の話を聞いていました。そんなこともあって小さな頃から東京への憧れは強かったですね。でも、東京で電車に乗った時に『あれ? 電車の中にゾンビがいっぱいいるぞ』と感じたんです。自分の目には、電車に乗っている “大人たち” がとても不健康そうに見えました。その時、この人たちを健康にしないといけない。電車に乗るより自転車に乗って街を走るべきだろうと。それで、この少し乗りにくいけど、身体との一体感が魅力のピストバイクを日本に広めようと思いたちました」↙︎
大学在学中に横浜・白楽の小さなスペースで「BROTURES」をスタート。20歳という早い起業ではあるが、起業自体はなんと10歳の頃から考えていたというから、福井さんにとっては10年の準備期間があったというわけだ。そのきっかけとなる出来事も自転車だった。

「これはスピリチュアルな話になってしまうんですけど、10歳の時に一度死にかけたんです。マウンテンバイクで崖から落ち、4メートルぐらいアスファルトに叩きつけられて、両手首と頭蓋骨を折るという大怪我でした。その体験以降、急に今までになかった思考に変化したんです。大人になると言うと大げさですが、物事を客観的に見れるようになったんです。それ以来、自分の生きている時代にこの国の人たちをもっと豊かにしたい、未来の人に感謝される環境をつくりたいって思ったんです」

自転車で痛い思いをしたにも関わらず、選んだ仕事は自転車だった。「BROTURES」はスタートの2年後には東京に進出。現在では国内4店舗にまで広がり、毎年3000人以上がピストバイクに乗り始め、満員電車や日頃のストレス解消を楽しんでいるそうだ。ピストバイクの専門店としては日本屈指のシェアを誇るほどにまで成長した。そんな福井さんだが、起業に向けて何かを勉強してきたのかと思えば、そうではないと言う。

「起業当初から、店づくりのノウハウを学んで準備して、というわけではありませんでした。自分は『こういうものを広めたい』、『こういうものがあったらいい』、『こういう人の思考を広めたい』、という気持ちがとにかく強いんです。それを形にしてきているというわけです。どうしてうまくいったのかと聞かれれば、持っている夢が明確であればあるほど、共感できる人が多くなるのだと信じています」↙︎

OUTPUT
「湘南で暮らすようになってから、人間らしさがどんどん芽生えてくるのを感じます」

3年前に湘南に移住。初めは茅ヶ崎、現在は辻堂に暮らしている。2年前からは茅ヶ崎で新しいビジネスをスタートさせた。

「飼っている犬のブロが4歳になるんですけど、東京に住んでいた時、小さなブロが息苦しそうに見えたんです。それで海の近くに住ませてあげたいと思って調べていたら、茅ヶ崎が日本で一番大型犬の登録が多いことがわかったんです。それには何か理由があるのかな? と思って引っ越してみたんですが、本当に暮らしやすい街でした。犬と一緒に入れる店もたくさんありますし、犬慣れしている人が本当に多いんですよ」

犬と共に暮らすにはとてもよい環境の茅ヶ崎だったが、当時、犬の食事や運動習慣について、正しい情報が得られるペットショップがなかったそうだ。

「それで、理想のペットショップをやろうと思い立ちました。『DOGGY BRO.』には世界中を見てきて得た知識が活かされています。うちではドッグフードではなく、犬が本来食べてきた生肉を与えることを提案しているんですけど、そんな食事習慣についてはドイツから、運動習慣についてはオーストラリアから学ぶことが多いんです。犬の本当の幸せは何か、犬には本来何が必要なのかを飼い主さんに知ってもらえる店。『DOGGY BRO.』がペットショップのネクストスタンダードになればいいなと思っています」

福井さんの愛犬ブロは、とてもしなやかな体をしている。海岸で福井さんとブロが遊んでいる姿を見たのだが、その躍動感に驚いた。それは福井さんにも同じことが言えて、アスリートという職業ではないのだが、しなやかで、身体のバネのよさが滲み出ている。

「健康じゃないと、思考って悪くなりますよね。自分が元気じゃないと人を元気になんてできません」↙︎
この「心身ともに“健康”であること」が福井さんの行動力の秘訣なのだろう。直感を大切にして、いつでも、すぐに動けるようにしているからこそ、大切な人との出会いやチャンスを逃さない。

人の健康を願ってピストバイクのビジネスを始め、愛犬の健康を考えてペットショップのビジネスが始まったわけだが、その思考はさらに広がり、地球を健康にして、寿命を少しでも延ばしたいと考えているという。

「湘南で暮らすようになってから、人間らしさがどんどん芽生えてくるのを感じます。毎日のように海に行き、サーフィンや犬と一緒にSUPをしたりして過ごしていますが、心の汚れが海の汚れにつながる、そういうことも見えてくるんです。地球で遊ばしてもらっているので、地球に恩返しをしないといけないという意識が芽生えたのも、この土地に住むようになってからですね」

福井さんの地球への恩返しの方法は、自分が暮らしている土地、そして日本をおもしろくすることでもある。

「世界中をまわっていてあらためて感じたのですが、日本はすばらしいところだし、もっとおもしろくなるはずなんです。有能な日本人が別の国に出てしまっていますが、そんな人たちがこの国で暮らして良かったって思えるようにしないといけない。自分は日本がもっと魅力的になるような、おもしろい文化をつくっていきたいんです」

そう話す福井さんを見ていると、また楽しい何かをはじめてくれるのだろうと、期待せずにはいられない。

THE PADDLER PROFILE

福井雄大

「BROTURES」「DOGGY BRO.」代表。
アメリカのピストバイク・シーンに魅せられ、ピストバイクのカルチャーを日本に伝えるべく2009年に「BROTURES」を立ち上げる。2016年に湘南に移住。
2017年に犬と人のライフスタイルをアクティブにさせる「DOGGY BRO.」を立ち上げた。

>>「BROTURES」ウェブサイト
>>「DOGGY BRO.」ウェブサイト