THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介

THE PADDLER | 033 Mr.Tsukasa Umesaki サッカー選手(湘南ベルマーレ)梅崎 司さん|茅ヶ崎

湘南には、自分らしく人生を切り拓くために漕ぎ出す男たち=THE PADDLERがいる。
彼らを突き動かすもの、そして、視線の先にあるものは?
INPUTとOUTPUTという二つのワードから、その行動を探る。

Photo: U-SKE  Text: Paddler

INPUT
INPUT:「湘南で破れた殻。選手、人間として成長できた」

実にひたむきな男だ。インタビューの質問に答える、一つの言葉もおざなりにしょうとはしない。そこからは、相手に自分の思いや考えを理解させようとする真剣さが、ひしひしと伝わってくる。口調は穏やかながらも、相手の目をじっと見て話す眼光にこもった力は強い。その姿勢は、プレースタイルのように前向きそのものだ。

昨年2018年は、湘南ベルマーレのサポーターにとっては、記憶に刻まれる一年になった。ここ数年J1とJ2の昇格と降格を繰り返していたが、念願のJ1残留を果たした。そして、クラブ史上初となる「ルヴァンカップ」優勝という日本一の快挙を成し遂げたからだ。

その原動力となったのが、梅崎司さんだ。若いころから才能を開花させ、10代で日本代表も経験。2017年までJリーグ屈指の人気を誇る浦和レッズに所属していたが、昨シーズンの開幕を前に、湘南ベルマーレに移籍してきた。

10年にわたり在籍していた古巣では、チームの顔にもなっていたが、ケガに泣かされ出場機会も減っていた。向上心は持ちながらも、ベテランとしてどこか安住している自分がいた。無意識のうちに「殻」にこもっていた梅崎さんに、湘南ベルマーレの曺貴裁(チョウ・キジェ)監督が声をかけた。

「昔を知っているオレからしたら、今は本当のお前じゃない。もっと楽しんで、中心となって前へ行く姿勢だったり、積極的に行くところを押し出していかないとお前じゃない」

自問し悩んでいたことを言い当てられた梅崎さんは、浦和レッズからの契約オファーもあったが、新天地の湘南に可能性を求めたのだ。↙︎
開幕当初は、スタメン起用も少なく、途中出場が多かった。しかし、徐々に活躍の場を見出し、昔の輝きを取り戻していった。サポーターの目には、移籍は成功のように見えたが……。

「僕自身はずっと、チームになかなかフィットできずに試行錯誤を繰り返していました。どうやったら、何が一番いいかとずっと考えていて……」

チームの成績が振るわない中、ある事件が起こる。大量失点で3連敗を喫した試合後のロッカールーム。梅崎さんは自らのプレーの不甲斐なさに苛立ち、感情を露わに。その姿に、チームメイトが思わず不満をもらしたのだ。

「攻撃だけやって守備をしていない。やることをやってからキレろ!」

守備の要であるゴールキーパー秋元陽太選手からの箴言(しんげん)だった。ヒートアップし一発触発の事態に。そこに現れた曺監督はその場の空気を察して、ふたりだけでなくチーム全員にお互いの不満や思いを出すように促した。そこで、心のわだかまりをみんながストレートにぶつけたのだ。

「あれがターニングポイントでしたね。自分にどうしてほしいか、皆が本音をさらけ出してくれた。『チームって何だ?』とすごく考えさせられました。それまでは、自分を出すことが先決だったんですけど、やはり、チームあってなので。チームカラーを理解しないといけない」

次の試合は途中出場だったが、手応えがあった。「守備の部分で、皆が言っていることはこういうことだったのか。これが上手くできれば攻撃にもつながる」と。そして、大事な試合であるルヴァンカップのプレーオフで2ゴールを決めた。

「すごくハマった。チームを理解してチームに活きることで個人が生きる。それがチームにも還元される。それが合致した瞬間でした」

それはまた、梅崎さんが「殻」を破った瞬間でもあった。

「昨年は、すごくエネルギーに満ちあふれた1年でした。久しぶりに純粋にサッカーを楽しめました。もっともっと上手くなりたい、成長したい、という気持ちが、より高い次元で、強くなりました。チームありきの中で、自分のプレーとチームがリンクしていくというところをすごく感じて……。湘南ベルマーレには感謝しています。自分のサッカーを変えてくれました。いや、サッカーだけでなく人間としても」

今シーズンも、梅崎さんはピッチの上で、ひたすらボールを追いかけている。サッカーを楽しむ純粋な喜びとともに。↙︎

OUTPUT
「新しいスタジアムをつくりたい。いつか、そこで指揮が執れれば」

移籍とともに、奥様と幼稚園に通うふたりの子ども、家族4人で湘南に移住してきた梅崎さん。ライススタイルも大きく変わったと言う。

「湘南というと、やはり『海』。僕は長崎県の海の側で育ったので、海の近くにまた住めるということはすごくうれしかったですね」

特に喜んだのはお子さんたち。茅ヶ崎の自宅は海のすぐ側なので、夏には家族みんなで多くの時間をビーチで過ごした。「子どもたちは本当に伸び伸び、楽しそうに生活しています」と梅崎さんは目を細める。湘南という環境は、サッカー選手としての梅崎さんにもいい影響を与えている。

「日々、エネルギーをもらっている感じがします。こうやって天気のいい日なんかは、海沿いを散歩したり、富士山を見たりすると、『自然に生かされているな』というのをすごく感じます。『もっと頑張ろう』と活力を貰っています」

オンタイムもオフタイムも、充実している生活を送っている梅崎さん。この先、ずっと湘南で暮らしていきたいという思いも生まれていると言う。その土壌となっているのが、チーム、環境、そして地元のサポーターだ。↙︎
「湘南ベルマーレのサポーターはみんな、優しいです。レッズの応援のエネルギーはとてつもないものがありましたが、負けが込んだり敗れた時のブーイングや緊張感というのは日々すごくありました。そのプレッシャーにも勝たなきゃいけないんですが、ベルマーレのサポーターは、勝っても負けてもチームのために応援してくれる。いわゆる『湘南スタイル』というものが好きで、もっともっとピッチの上でそれを見たいから、一緒になって後押ししようというのをすごく感じますね」

サポーターの声援へ報いるには、湘南らしい自分たちのサッカーをして勝利すること。

「僕はこのチームで優勝したい。もちろん簡単ではないけど、不可能な話ではないと思っています。そのためにはチームのために個人をもっともっと伸ばしていって、個人がいきるチームにしていかなきゃいけない。まだまだ自分自身足りていないと感じていますが、それをできるくらいの力をつければ……」

その先にあるのは、大舞台である日本代表。「ワールドカップには出たい。家族をその舞台に連れて行きたい」という思いがある。そして「その可能性はゼロではない」と力を込める。
梅崎さんは、さらに大きな夢を抱いている。

「サッカー専用のすごいスタジアムつくりたいんです。そこで、湘南スタイルを強く確固にしたら、もっと相手チームが恐れるようなクラブになる。本当の強さを身につけてその力を発揮した時、僕らは本当におもしろいサッカーを見せられるし、おもしろい空間をつくれる。ぜひ皆さんもそれを体感し、一緒になって夢中で楽しんでほしい。将来、僕もそういう空間で指揮を執ってみたいですね。曺監督と出会って、『ああいう人になりたいな』と。『指導者として人を育てられるような人間になりたいな』という思いがすごくあります」

新しいスタジアムで躍動する湘南ベルマーレの選手たち。観客席から大きな声援を送っているサポーター。そして、ピッチに向かって指揮を執っている梅崎さん。将来、みんなが夢中にサッカーを楽しめる夢のような空間が、湘南に誕生しているかもしれない。

ESSENCE FOR HIS LIFE

THE PADDLER PROFILE

梅崎司

1987年長崎県生まれ。湘南ベルマーレのミッドフィルダーとして活躍。
2018年、10年間プレーをした浦和レッズから完全移籍で加入。
副キャプテンとして、チームをルヴァンカップ優勝、J1残留に導いた。

著書『どん底から何度でも這い上がる 折れない心の21の物語』(双葉社)が好評発売中