THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介

THE PADDLER | 040 Mr. Takafumi Ooka 「DUDE INN」代表
大岡孝文さん | 平塚

湘南には、自分らしく人生を切り拓くために漕ぎ出す男たち=THE PADDLERがいる。
彼らを突き動かすもの、そして、視線の先にあるものは?
INPUTとOUTPUTという二つのワードから、その行動を探る。

Photo: Yumi Saito  Text: Takuro Watanabe

INPUT
「サンフランシスコでの経験は、 自分が進むための力を与えてくれたんです」

「グレイトフル・デッド」。言わずと知れたヒッピーカルチャー、サイケデリック・ムーブメントの最重要バンドの一つで、サンフランシスコが生んだアイコンだ。1995年に中心メンバーであるジェリー・ガルシアが他界したが、ほかのメンバーは活動を続け、近年は「ザ・デッド&カンパニー」としてライブ活動を行い、世界中にフォロワーを持つ。音楽の即興性、そして自由な精神性とシェアする姿勢からくる魅力から、音楽だけではなく、さまざまなカルチャーにも影響を与え続け、「グレイトフル・デッド」の撒いた種子は世代や国、地域、ジャンルを超え、新たな動きとなって芽生えている。

「デッドはずっと好きでした。だからといって『めちゃめちゃ “デッド・ヘッズ”(グレイトフル・デッドの熱狂的フォロワー)です』という感じでもなかったんですけど、いつもデッドのカルチャーに背中を押されていたんです」

大岡孝文さんが、茅ヶ崎でインポートアイテムと古着を扱う「DUDE INN」をスタートさせたのは2018年。平塚の「MAMUDS」というショップで長く店長を務め、独立するにあたり、自分の表現方法を考えた結果、やはり洋服にたどり着いたのだそう。

「まだ店を持つ前、家で作業している時にジェリー時代のデッドを聴いていたんですけど、ふと『そういえば今は(ジョン・)メイヤーがジェリーのパートをやってるんだよな』と思ってライブ音源を聴いてみたんです。これがすごくよくて、リンクしちゃったんですよね。俺もメイヤーみたいに進まなきゃいけないんじゃないかなと思って。そこから自分のテーマが見えてきました。そんな時に、このスペースでポップアップをやらせてもらったんですが、良い反応をたくさんもらえたんです。それから、このスペースが空くっていう話をいただいたんで、即決ですよ。ミラクルが起きましたね」↙︎
茅ヶ崎の住宅街の中にありながら、緑があふれ、アメリカ西海岸のウェアハウスのようにショップが立ち並び、ゆったりとした空気が流れるスペースの一角にある小屋が「DUDE INN」だ。扱うのは “土産”(と大岡さんは言う)の数々。Tシャツを始め、コインケースやステッカー、大岡さんが3センチのサイズ(ポロ ラルフ ローレンの刺繍ロゴマークのサイズ感)にこだわってつくった、ジェリーの顔刺繍がポイントされたキャップなど、個性あふれるものが小さなスペースに綺麗に並ぶ。

「お土産なんです。そこに行かないと買えないもの。それって、なんでもネットで買えてしまう今の時代へのアンチテーゼにもなるかなって思うんです。そんなお土産を相棒と一緒につくっていたら、インスタグラムを通じてアメリカの(デッド)ヘッズたちに刺さったんです。『お前のつくるものやべえな、俺のつくったものとトレードしよぜ』っていう感じで連絡が入るようになったんです」

大岡さんがつくったTシャツを求めて、ジョン・メイヤー本人からも連絡があったそうだ。世界中のデッド・ヘッズと次々に繋がっていき、この夏には友人に誘われて、サンフランシスコで開催された「ザ・デッド&カンパニー」のライブで出店することになった。

「コロラドとジョージアに住むやつらと一緒に、会場のパーキングエリアで出店が決まったんです。会場には7万人の観客。外の自由出店エリアにも1万人くらい観客がいるんですよ。そこにはヘッズがたくさんいて、俺もワッツアップして、どんどん繋がっていきました」

この経験が、大岡さんの生き方に大きな影響を与えた。

「サンフランシスコでの経験は、自分が進むための力を与えてくれて、あらゆることの秩序、枠組みをパスガードさせてくれたように思います」↙︎

OUTPUT
「NOT FADE AWAY(色褪せない)”の精神なんですよ。俺もそれでいきたいですよね」

町にひっそりと佇む小さな「DUDE INN」なのだが、小屋から溢れるムードは、なんというか、ワクワクする雰囲気が溢れている。

「店を始めるとしたら、湘南しかないなと思いましたよ。だって、カリフォルニアじゃないですか(笑)」

大岡さんが店づくりをする上で選ぶ土地が、東京などの都市部ではなかっただろうというのは容易に想像がつく。この小屋をインスタグラムにポストしたところ、世界中からメッセージが届いたそうだ。

「おい、やべえな、そこ雨漏りしないのか?って(笑)。みんなこのスペースに反応してくれました。ここは本当にいい場所ですね。俺らみたいなクリエーションをしている人間にとって、茅ヶ崎という土地はものすごく寛大だと思うんです。いろんなことがやりやすい土地。そんな土地だからこそ、いろんな枠組みを少しずつ取り払えたらいいなと、考えているんです」

 “こうあるべきで、前例はこうなっている”。そんなルールを積み重ねて、人間は枠組みをつくってきた。そのルールに従えば、それらしい形にはなるし、楽でもある。でも、その枠組みが発想の妨げになって、人を窮屈にしているという側面もある。それらを取り払っていこうというのだろう。

「グレイトフル・デッド」を通じて知った世界、そして、この夏のサンフランシスコでの経験は、大岡さんの進むべき道を照らした。

「俺の好きな花屋があって、その店の花には値段がついてないんです。俺もそんな風になりたいですね。古着なんて定価が無いじゃないですか。その人によって値段を変えるという売り方ができたらいい。たとえそれがマイノリティでも、それがやれるんならやりたいですよね。お店ってローカルのお客さんに売ってなんぼだとは思うんですけど、それも嫌ですね。友だちが気を使って買ってくれたりするのなんて、もっと嫌なんです。そういう関係も溶かしていけたらと思ってます」

「DUDE INN」を訪ねれば、ただモノを選んで買うだけではなく、自由とシェアの精神に触れることができる。それは実際に店に訪れることによってしか得られないものだ。

「『DUDE INN』の目指しているのはそれなんですよ。ここに来ればみんなチルできるよっ、寛げるよっていう場所。名前を『DUDE INN』にしたのは、『DUDE」って男性を指すスラングなんですけど、今の世の中はどうしても女性がメインストリームだと思うから、『お父さんたちも大丈夫だよ、おいでよ』っていう意味も込めてます」

グレイトフル・デッドのフォロワーが昔からよく使う言葉に「NFA」というものがある。Tシャツのグラフィックをはじめ、さまざまなシーンでその文字を見るのだが、「NFA」とは「NOT FADE AWAY」を意味する。

「”NOT FADE AWAY”の精神なんですよ。色褪せないということ。俺もそうやっていきたいですよね」。

THE PADDLER PROFILE

大岡孝文

古着とインポートアイテム、そして“土産”を扱うショップ「DUDE INN」を2018年にオープン。
バンド「グレイトフル・デッド」をモチーフにして制作したオリジナルの“土産”の数々が、海外のデッド・ヘッズからも注目を集めている。