THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介

THE PADDLER | 020 Mr.Noriyuki Ushio 『Scooters For Peace』オーナー |逗子

湘南には、自分らしく人生を切り拓くために漕ぎ出す男たち=THE PADDLERがいる。
彼らを突き動かすもの、そして、視線の先にあるものは?
INPUTとOUTPUTという二つのワードから、その行動を探る。

Photo: Yumi Saito  Text: Paddler

INPUT
「ショップの名前は、バリーと一緒に北カリフォルニアを旅していた時に生まれたものなんです」

バリー・マッギーをはじめとした、サンフランシスコやベイエリア周辺で活躍するアーティストの作品やジンを扱うショップが逗子にある、という噂を聞いたことがある人は多いのではないだろうか。そのショップが『Scooters For Peace』。週に2日のみの営業で、そのほかの曜日は予約制を取っている。ショップのウェブサイトやインスタグラム・アカウントを見ると、ほかでは見ることができない、先に述べたアーティストたちの作品を扱っている。

『Scooters For Peace』とは、一体どんなショップなのか? その界隈のアーティストに関心がある人たちには名が知れていても、実際に訪れたことがある人以外には、謎めいていた存在。その、ちょっと不思議なショップは逗子の池田通りにある。古いベスパが停まったビルの外階段を上って『Scooters For Peace』 に入ると、まずその小ささに驚く。

「狭いでしょう。みんな驚くんですよね(笑)。海外からきてくれるお客さんとかも、皆さんそれなりのサイズのショップを想像しているみたいで」

バリー・マッギーのドローイングや、メッセンジャー・バッグ界のレジェンド、エリック・ゾーがつくる『ZO Bags』、デレック・マーシャルのジンやTシャツ、若手アーティストであるタイラー・オームスビーのセラミックなど。サンフランシスコ中心の作品が壁や床に並ぶ。このショップのオーナーが、ウェブ・デザイナーでもある牛尾則行さんだ。『Scooters For Peace』は彼のオフィスでもある。

「ミュージアム・ショップって呼んでいます。ショップの名前は、バリー(・マッギー)と一緒に北カリフォルニアを旅していた時に生まれたものなんです。ボリナスあたりのレストランで料理を待っていると、彼がペーパーナプキンに落書きを始めたんですよ。そこに『Scooters For Peace』と書いてあって、これはいいなと思って、バリーに名前をもらったというわけです。頭文字をとると『S.F.P.』なんで、サンフランシスコの『S.F.』も入っていていいかなと」

この10数年、毎年訪れているサンフランシスコでは、アーティストの仲間たちとサーフィンをしたり、スクーターに乗って過ごすのだという。彼らが好むのはヴィンテージのサーフボード、ベスパやランブレッタのスクーター。

「サンフランシスコはカリフォルニアの中でも独立した文化がありますね。50年代のビート、60年代のフラワームーブメントという具合に、常にカウンター的なカルチャーが発生するエリアですよね。70〜80年代はパンクやゴス、モッズ・シーンも盛んだったのですが、当時、ミッション地区に伝説のスクーターガレージがあったと聞いています。そんなことから今でもサンフランシスコにはスクーター乗りが多いのかもしれません」

幼少期からバイクやスケートボード、そしてアウトドアスポーツなどのアメリカン・カルチャーに影響されながら育った牛尾さん。学生時代、大学を卒業してからもお金を貯めては北米旅行に出かけていたとか。北米遊学を経て外資系アウトドア会社、サーフィン関連会社に勤務しカリフォルニアの文化、空気を日本に届ける現場に身を置いてきたという経緯を持つ。

その後、東京・中目黒でミュージシャンの森俊二氏(Gabby & Lopez 、 Natural Calamity)が経営していたカフェ『ALASKA』にて、『Scooters For Peace』の前身となるような小さなショップ・イン・ショップを営み、
2016年に現在の場所で『Scooters For Peace』をスタートさせた。↙︎

OUTPUT
「好きなことやこだわりを追求してる人たちはスタイルに出るんじゃないですかね。 湘南はそんなライフスタイルを送っている人たちが多く住んでいると思います」

ショップには、商品に紛れて1960年代のヴィンテージ・ボードが置かれている。パテでリペアされた跡がそのまま残る、味わいのあるシングルフィンだ。

「スクーターもサーフボードも古いものが好きなんですよね。スクーターのボディの錆や塗装のやれた感じ、サーフボードが陽に焼けた色、リペアやサンディングの痕跡なども。新品にはあまり興味がないというか、オリジナルのものをこつこつと直しながら楽しむことに魅力を感じます。コレクターというわけではなく、日常的に使うものとして好きなわけです。最近気に入って乗っているのは60年代に日本で誕生した米沢プラスチック社の『MALIBU』サーフボード。先代の方々が50年以上も昔に乗っていたボードに乗れるなんて素晴らしいことだと思っています」

10年以上前から牛尾さんを知っているのだが、彼のスタイルはずっと変わらない。海では古いシングルフィンのロングボードに乗って、夏でもロングパンツに革靴。湘南エリアの夏の大定番スタイルである、短パンにビーチサンダル姿、という牛尾さんを見かけたことはない。

「こんなボードに乗っているから、海で地元の人たちから奇妙な目で見られてるかもしれません。『好きだねえ』って(笑)」

彼のような趣向の人間が、彼の周りにはたくさんいるのかと言えば、そんなことはまったくない。孤高ともいえるスタイルを築いているのが牛尾さんなのだ。

多くの男子は、少年の頃から地元の友人や憧れの先輩などに影響を受け、その真似をしたり、同じような趣味趣向の人間たちで互いに影響をしあったり、または、その時々の流行に乗ったりするものなのだろうが、どうやら牛尾さんの場合は異なるようだ。

「逗子の小坪に生まれ育ったんですけど、地元の小学校に通っていなかったこともあって、近所の友だちっていなかったんですよね。それもあって昔から一人で遊んでることが多かったですね。3歳の時に父親がバイク好きで勧められて始めたモトクロスバイクや、10代で夢中になったスケートボードも練習はひとりでこっそりと逗子マリーナでやってました。そう考えると、確かに似たような趣味趣向を共有する人間は周りにいなかったかもしれません。今気づいたけど(笑)」

サーフィンを通じてバリー・マッギーたちと出会った時は、趣味趣向に共通することが多かったこともあり、すぐに打ち解けたのだそうだ。そんな出会いとつき合いがあったからこそ生まれた『Scooters For Peace』には、逗子とサンフランシスコの海を隔てて交流する、彼らが過ごした楽しい時間が、ジンやTシャツの形になって表現されていたりする。

「昨年、サンフランシスコのアーティストたちと宮城県・石巻で開かれたアート・フェスティバルに参加しり、この夏はバリーの個展に合わせて『Scooters For Peace』のポップアップ・ショップをサンタバーバラで開催したりしました。日本でもカリフォルニアでもそうなんですけど、サーフボードとスクーターをバンに積んでいって毎朝サーフィンしてから展示準備、合間にスクーターで遊んでまた準備して、夕方サーフィン、のような感じで(笑)。彼らとは単純にウマがあうというか、一緒に過ごしていて楽しいですね」

世の中でよく使われる言葉ではあるのだが、「スタイルがある人」というのは、牛尾さんのような人物を指すのだろう。彼はそのスタイルを人に押し付けるわけでもなく、人と違うことをやってやろうと意気込んでやっているわけでもなく、ただ自然に、彼の好むサーフィンと同じく「気持ちいい」生き方をしている。

「好きなことやこだわりを追求してる人たちはスタイルに出るんじゃないですかね。湘南はそんなライフスタイルを送っている人たちが多く住んでいると思います」

好きだからやっている。本当の意味でスタイルがある人物というのは、実はなかなかいなかったりするのだが、牛尾さんはまさにそんな人なのだろう。湘南にはまだまだおもしろい人物がいる。

ESSENCE FOR HIS LIFE

THE PADDLER PROFILE

牛尾則行

ウェブデザイナー。『Scooters For Peace』オーナー。
2016年、逗子にサンフランシスコ周辺アーティストの商品を扱うミュージアム・ショップ『Scooters For Peace』をオープン。