THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介

THE PADDLER | 054 Mr. Nori Ko SUNSHINE JUICE代表
コウ ノリさん | 葉山

湘南には、自分らしく人生を切り拓くために漕ぎ出す男たち=THE PADDLERがいる。
彼らを突き動かすもの、そして、視線の先にあるものは?
INPUTとOUTPUTという二つのワードから、その行動を探る。

Photo: Yumi Saito  Text: Paddler

INPUT
「はじめて飲んだ時に受けた衝撃的な感覚を伝えたくて始めたんです」

「はじめてコールドプレスジュースを飲んだ時に、身体にぐんぐんと響いて、細胞が目覚めるような感覚があったんです。これはすごいな、と思いましたね。その時に受けた衝撃的な感覚を伝えたくて始めたんです」

葉山に暮らす『サンシャインジュース』代表のコウ ノリさんが手がけるのは、ミキサーの刃を高速回転させて作る従来の方法ではなく、素材に熱を加えず生のまま圧力をかけて水分を絞り出す「コールドプレス」という製法で作られるジュースだ。

素材の水分だけで作るため、野菜や果物が持つ“生きた力”を効率よく体に取り入れることができ、健康志向の人を中心に注目を集めている。コウさんはこのコールドプレスジュースの日本初となる専門店を2014年にスタートさせた。

「当初はいきおいでやっていた部分がありますね。だって、野菜の仕入れ方もわからないくらいでしたから(笑)。はじめはネットで買ったオーガニック野菜を家で絞ってジュースを作っていたのですが、そうすると1本2000円くらいになってしまうんですよね。ものすごく
高額なジュース。そんなところからのスタートです」

そんな時、飲食事業を展開している知人の紹介で宮崎の野菜生産者を訪ねた際、案内してもらった畑で放置されている野菜を目にした。聞くと、形や大きさが規格に合わず、流通には乗せることができないため廃棄する野菜だということ。そんな「廃棄野菜」の存在を知ったコウさんは、これらを材料にすることで廃棄野菜を減らすことができ、ジュースのコストを抑えることができるのではと考え、全国の生産者の元を訪ねはじめた。↙︎
「店を始める前に1年ぐらいは生産者さんを巡っていました。電話で顔も見せないで『廃棄する野菜はありますか?』なんて言っても出してくれるわけもないんです。実際に赴くことで生産者の方とも繋がれて、土地の個性を知ることができますしね」

こうして日本におけるコールドプレスジュースのパイオニアとなったコウさん。店をスタートすると多方面から注目を集め、ビジネスを大きくしようと考えた時もあったというが、拡大路線を辿らなかったのには理由がある。

「最初にコールドプレスジュースを飲んだ時の感覚、その原点を忘れないようにしたいと思いました。エナジードリンクみたいに早く効くとか、手っ取り早く答えを求めるものが出回る今の世の中ですけれど、そんな魔法みたいなものは無いと思うんです。何事もやり続けたことで少しずつ結果が見えてくるし、それが本当の意味での喜びとなるはずです。そんな思いで作っているものに対して誰かが共感してくれたら、こちらも想像以上のものを得ることができるんです」

大切にしているのは、はじめに心を動かされた感覚をそのままの濃度で伝えることだった。

「ビジネスをスケールアップする話が出て自問した時に、『最高の感覚を味わってもらいたい』っていうところから始めたのに、その感覚の本質は味わえないけれど、なんなくそれっぽい感じっていうものを作るのか? いやそれはないなと。そして仮に100店舗とかになったとしてもそれって楽しいかな? って考えたらそれも違うだろうという考えに至りました」↙︎

OUTPUT
「自然に接している人とはいろんな感覚を共有できるし、そういう人と繋がりたいといつも思っています」

「サンシャインジュースを飲んでくれた人が環境や健康に意識を向けてくれたら嬉しいし、生産者さんにも喜んでもらいたいですね」

サンシャインジュースを手がけるうえでの喜びについて尋ねるとこう話してくれたコウさん。

サンシャインジュースは、美容や健康に対する意識が高い人はもちろんだが、環境意識の高い人にも注目されている。それはサンシャインジュースが生きた自然のエネルギーそのものであること、そしてジュースを絞る工程で残る搾りかすを、別プロダクトであるスープの出汁やアパレルの染料として再利用したり、発酵させ堆肥化して、オーガニックソイルを作るプロジェクトを進めるなど、自然の力や循環への取り組みをとても大切にしているからなのだろう。

さらに、アスリートや日常的に運動に親しむ人たちもサンシャインジュースの大きな支持層なのだが、コウさん自身もずっと運動と共に生活を送ってきた。

「2012年まで3年半ほど台湾に住んでいたんですけど、その頃はものすごく走り込んでいて、自転車やオープンウォータースイムの大会にも出ていました。当時はヴィーガンだったということもありますけれど、体だけでなく精神的にもシャープで切れる感じでしたね。今思うと少し気難しい人間だったかもしれません(笑)」↙︎
東京で生まれ、アメリカで10代から20代前半を過ごし、自身のルーツがある台湾での暮らしを経て東京に店を構えてから8年が経った今年、コウさんは生活の拠点を葉山に移した。

「タイミングですね。元々好きな土地でしたから。波乗りも好きなので海の近くで暮らしたいとはずっと思っていました。葉山に暮らしてからは夕陽を見る時間を大切にしていて、サンセットの時間になると一旦仕事を止めて葉山公園で夕陽を眺るんです。そうすると、自分と同じような動きをしている人がいるんですよね。そういう価値観の人たちがこの土地のカルチャーを形成しているんだと思うと、なんかいいなあと。自然に接している人とはいろんな感覚を共有できるし、そういう人と繋がりたいといつも思っています」

葉山への移住後に仲良くしている鎌倉のクラフトビール醸造所『ヨロッコビール』の吉瀬明生さんとはコラボレーション・ビールをリリースするなど、湘南エリアでの動きも始まりだしている。

「野菜の生産者さんに『これが僕の作っているジュースです』って言って飲んでもらうんですけど、みなさん自分が作った野菜がこんな形に姿を変えるのかと驚いてくれるんです。『ヨロッコビール』と一緒にやっているのもそういう意味でも面白くて、自分もジュースがどんなビールになるのかワクワクするし、いつもジュースを飲んでくれているお客さんや生産者の人に『今度はビールになっちゃいました!』っていう、そんな動きを楽しんでもらえたらうれしいですね」

今後は湘南エリアの野菜生産者の元も訪ねていきたい、というコウさん。土地の個性を味わえて自身の暮らす土地の魅力に気づくきっかけになるような、“湘南の味”がする新しいサンシャインジュースが生まれるかもしれない。

THE PADDLER PROFILE

コウ ノリ

アメリカ、日本、台湾での生活を経て2014年に日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」をオープン。
使う素材にこだわり、全国各地の生産者を訪ねて太陽と土のエネルギーが詰まった野菜を仕入れ、サンシャインジュースを展開する。