THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介

THE PADDLER | 043 Mr. Junsho Shaku 湘南ロックンロールセンターAGAIN代表、僧侶
釈順正さん|茅ヶ崎

湘南には、自分らしく人生を切り拓くために漕ぎ出す男たち=THE PADDLERがいる。
彼らを突き動かすもの、そして、視線の先にあるものは?
INPUTとOUTPUTという二つのワードから、その行動を探る。

Photo: Koki Saito  Text: Paddler Edit: Yu Tokunaga

INPUT
「音楽であふれる茅ヶ崎。だから多くのミュージシャンが生まれる」

湘南、いや日本でも屈指のミュージシャンを世に送り出している街といえば、茅ヶ崎だろう。古くは加山雄三さん、尾崎紀世彦さん、ブレッド&バター、そしてサザンオールスターズといわゆる湘南サウンズをつくり出したミュージシャンを輩出。最近では若者から人気を集めているSuchmosがその系譜を辿っている。

そんな茅ヶ崎の音楽カルチャーを受け継ぎ、次の世代につなげようとしているのが、釈順正(しゃく・じゅんしょう)さんだ。釈さんのプロフィールは一風変わっている。実家である地元の寺で僧侶を務めながら、日々、築地本願寺で仏教学の研究に専心。オフタイムにはギターリストとしてライブ活動を行い、毎週、「鎌倉エフエム」でDJとしても活躍している。また、湘南サウンドと茅ヶ崎の歴史を入念な調査に基づいた研究書『ぼくらの茅ヶ崎物語 日本のポップス創世記 茅ヶ崎サウンド・ヒストリー』の編集者として、地元のミュージックカルチャーをひもとこうとしている。

釈さんと音楽の出会いは小学5年生にさかのぼる。2000年、茅ヶ崎市民の強い希望でサザンオールスターズのライブが茅ヶ崎市民球場で開催された。観客は抽選で選ばれたのだが、応募が殺到。釈さんは家族で唯一、市民枠で当選。音楽には、まったく興味がなかった釈さんだったが、そのコンサートで幼心に衝撃を受けることに。

「ロックって、カッコいい!」

それまで野球少年だった釈さんだったが、コンサートの翌週には両親にねだってギターを買ってもらった。それからは音楽ひと筋に。高校には野球部の戦力と期待されて入学したが、自ら軽音楽同好会を創部。大学時代に結成したバンドの仲間とは今も音楽活動を続けている。釈さん然り、なぜ茅ヶ崎から多くのミュージシャンが生まれるのだろうか。

「街に音楽があふれていることが、理由の一つだと思います。例えば、この前、花火大会がありましたが、普段サザンを流さないような店まで、サザンを流しまくっていました。そういうことを、やれちゃう街なんですよね。だから別にCDを買わなくてもサザンの曲はやっぱり知っているんです」↙︎

OUTPUT
「茅ヶ崎の音楽カルチャーを次の世代に伝えたい」

釈さんが中心となって編集された『ぼくらの茅ヶ崎物語』だが、たいていの音楽関連の出版物がそうであるように大手のスポンサーや出版社の手によって、世に出たわけではない。茅ヶ崎に暮らす音楽好きの思いが集まって生まれたのだ。2017年、茅ヶ崎映画祭で『茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~』という桑田佳祐さんへのオマージュ作品が上映された。そのファンブックをつくろうと地元の有志が結束して制作したのが、『ぼくらの茅ヶ崎物語』の原型だ。

その草の根的な動きと、あるメモリアルのイベントがシンクロする。茅ヶ崎の海にほど近い住宅街に「ブランディン」という音楽好きに愛されるカフェがある。オーナーの宮治淳一さんはサザンオールスターズのボーカル桑田佳祐さんの同級生、そしてバンドの名付け親としてサザンファンに知られた存在だ。昨年2018年は、奇しくもブランディン誕生20年、そしてサザンオールスターズ40周年という節目だった。「何かイベントやらなければ」という声が常連の間で高まり、ブランディンで宮治さんと懇意の釈さんに白羽の矢が立ったのだ。

1975年、宮治さんと桑田さんは、茅ヶ崎の地でロックンロールを広めたいと「湘南ロックンロールセンター」という音楽イベントを開催した。その伝説を2018年に復活させようと釈さんと仲間で立ち上げたグループが、「湘南ロックンロールセンターAGAIN」だ。サザンオールスターズを愛する地元のミュージシャンで音楽フェスを開催しよう。その願いは実現し、イベントは大盛況のもとに終えた。その協賛者へのお礼の品が先述したファンブック『ぼくらの茅ヶ崎物語』だ。完成度の高さが評判を生み出版社の目にとまり、全国にリリースされたのだ。

好評を博した「湘南ロックンロールセンターAGAIN」は、この夏にもブレッド&バター50周年を祝すためにイベントを開催した。本人たちがメインアクトとして参加し、会場となった柳島スポーツ公園総合競技場は音楽好きが集い大いに熱狂した。

「湘南ロックンロールセンターAGAIN」のメンバーは、代表の釈さんをはじめ20代が中心。
「今の20代の若い子たちのセンスが、これからの湘南カルチャーのメインに間違いなくなります。そういう子を発掘して養成するきっかけとなれば。自分は今年で30才なので、引退しないと」と笑う。

自分が言い出して始めたことだから、イベントの赤字は釈さんが補填。純粋に好きな音楽のためだからと全力投球。このような下支えがあるからこそ、茅ヶ崎の音楽カルチャーは脈々と次世代に受け継がれるのだろう。来年2020年は若大将こと加山雄三さんが音楽活動60周年を迎える。当然、「湘南ロックンロールセンターAGAIN」の活動にも期待がかかる。

「まだオフィシャルにはできませんが、いろいろと企んでいます。ご期待下さい」

THE PADDLER PROFILE

釈順正

1989年生まれ。茅ヶ崎の寺に育ち、築地本願寺内の研究所にて仏教学の研究員として務める。音楽界でも活躍し、「湘南ロックンロールセンターAGAIN」の代表として活動。『ぼくらの茅ヶ崎物語 日本のポップス創世記 茅ヶ崎サウンド・ヒストリー』を編集。