THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介
THE PADDLER | 045
Mr. Akira Natsume
「山と道」代表
夏目彰さん|鎌倉
INPUT
「夫婦でものづくりを。生活そのものをもう1回つくり直したい」
登山家やハイカーは、どこか求道的で思索を深める人が多い。人間を超越した自然に畏怖しながらも、その美しさに身を置こうとする。命を賭すことも恐れず、己の体力の限界へ挑戦する。だから、頭は怜悧で独自の精神や観念を生む。彼らに哲学家や詩人など思想家が多いのは偶然ではないだろう。「山と道」を創業した夏目彰さんも、そんな香りがするひとりだ。
ここ十数年、若者の間でブームになったクライミングやハイキングは、今やすっかりライフスタイルの一つとして定着した。近年、その新機軸の一つとして、ムーブメントとなりつつあるのが「ウルトラライト(UL)」だ。文字通り、装備や衣服を極限まで軽量化して心身へのストレスを少なくすることで、より山を楽しもうというアメリカ発祥のスタイルだ。日本でのULの牽引役の一人が、「山と道」そして夏目さんだ。鎌倉・材木座に「山と道研究所」を構え、UL用のアパレルやバッグなどのプロダクトの開発と研究を行っている。週末になるとショップになるが、新製品が発売されると行列ができることもあるほどの人気だ。
「厳選して道具を持って、最適なレイヤリングで行くことは、すごく大事で安全なんです。かつ軽くなって自由に歩くことができて、すごくシンプルな気持ちよさを味わえる。それを味わうと、“いろんなものが全部必要じゃないな” というのが見えてくるんです」と、夏目さん。
ハイキングに本当に必要なものを形にしていく。その明確なコンセプトに従ってまっすぐにものづくりに向き合う。夏目さんは、そのものづくりの姿勢やストーリーをインターネットメディアで積極的に発信してきた。それにハイカーたちが共鳴し、「山と道」とともにUL愛好者が育ってきた。↙︎
ここ十数年、若者の間でブームになったクライミングやハイキングは、今やすっかりライフスタイルの一つとして定着した。近年、その新機軸の一つとして、ムーブメントとなりつつあるのが「ウルトラライト(UL)」だ。文字通り、装備や衣服を極限まで軽量化して心身へのストレスを少なくすることで、より山を楽しもうというアメリカ発祥のスタイルだ。日本でのULの牽引役の一人が、「山と道」そして夏目さんだ。鎌倉・材木座に「山と道研究所」を構え、UL用のアパレルやバッグなどのプロダクトの開発と研究を行っている。週末になるとショップになるが、新製品が発売されると行列ができることもあるほどの人気だ。
「厳選して道具を持って、最適なレイヤリングで行くことは、すごく大事で安全なんです。かつ軽くなって自由に歩くことができて、すごくシンプルな気持ちよさを味わえる。それを味わうと、“いろんなものが全部必要じゃないな” というのが見えてくるんです」と、夏目さん。
ハイキングに本当に必要なものを形にしていく。その明確なコンセプトに従ってまっすぐにものづくりに向き合う。夏目さんは、そのものづくりの姿勢やストーリーをインターネットメディアで積極的に発信してきた。それにハイカーたちが共鳴し、「山と道」とともにUL愛好者が育ってきた。↙︎
「1個1個のものづくりを、本当に真摯に取り組んでいかないと。ものづくりをしている者として、その背景を含めて、お客さんに伝えていくことが使命だと思っています。ものづくり半分、伝えることを半分というようなやり方で僕はやっていきたい。つくっただけで終わりではなくて、それをどう使うかをお客さんに伝えていかないと、道具というのは伝わらないと思うんですよ」
2011年、38歳で「山と道」をスタートさせた夏目さんだが、服や道具などのものづくりとは無縁だった。それまで『GASBOOK』というアート関連のメディアのプロデューサーとして都内で活躍していたのだ。斬新で発信力があるメディアとしてアートやカルチャー好き、業界からも高く評価されていた。日夜、忙しい日々を送っていた夏目さんだが、その「東京時間」に嫌気がさし、30歳にして鎌倉に移住を決めた。
「鎌倉は山がすごく近いし海もある、そして文化もある。そんな環境に惹かれましたね」
この鎌倉での暮らしが、「山と道」を生むことになる。
「引っ越してきて、夫婦で何かものづくりをしたいと思うようになりました。“生活そのものをもう1回つくり直す” みたいなことをやりたい、と。それに山が好きだけどサラリーマンだと時間も取りにくい。だったら、アウトドアメーカーを自分で立ち上げれば、満足いくだけ好きなだけ山に行ける。そんな生活環境を手に入れたいと」
夏目さんから相談があった時、奥さんの由美子さんは冗談だと思ったそうだが、結局は二人三脚で同じ道を歩むことになった。↙︎
2011年、38歳で「山と道」をスタートさせた夏目さんだが、服や道具などのものづくりとは無縁だった。それまで『GASBOOK』というアート関連のメディアのプロデューサーとして都内で活躍していたのだ。斬新で発信力があるメディアとしてアートやカルチャー好き、業界からも高く評価されていた。日夜、忙しい日々を送っていた夏目さんだが、その「東京時間」に嫌気がさし、30歳にして鎌倉に移住を決めた。
「鎌倉は山がすごく近いし海もある、そして文化もある。そんな環境に惹かれましたね」
この鎌倉での暮らしが、「山と道」を生むことになる。
「引っ越してきて、夫婦で何かものづくりをしたいと思うようになりました。“生活そのものをもう1回つくり直す” みたいなことをやりたい、と。それに山が好きだけどサラリーマンだと時間も取りにくい。だったら、アウトドアメーカーを自分で立ち上げれば、満足いくだけ好きなだけ山に行ける。そんな生活環境を手に入れたいと」
夏目さんから相談があった時、奥さんの由美子さんは冗談だと思ったそうだが、結局は二人三脚で同じ道を歩むことになった。↙︎
OUTPUT
「ハイクとライフとコミュニティをつなげたい」
夏目さんが、「ウルトラライト」に傾倒するようになったきっかけの一つが、肌身離さず持ち歩いていていた一冊の本だった。ソローの『森の生活』だ。19世紀、自給自足の暮らしを送った著者本人の回想録であるが、極限までなにシンプルな生活は現代の資本主義、物質主義へのアンチテーゼとして時を超えて評価されている。持たないことの幸せ、ミニマリズムの豊かさが、夏目さんの中でULとリンクしたのだ。
「自分の生活を見直して、本当に必要なものを厳選して組み立てていくと、これだけ自由になれる、これだけ人間的な暮らしができるんだ、というのが『森の生活』です。ULの発想も、いろんなものを持ちすぎると自ずと不自由になる。かつ、その使い方もわからなくなってしまうということです」
まだまだマイナーであるULの楽しさ、その精神をもっと多くの人に知ってほしい。そのステップの一つとして、昨年始めたのが「山と道HLC」だ。
「全国各地をいろいろと回って、どこのローカルにも魅力と暮らしがあるということがよくわかったんです。それぞれのローカルに入って一緒に山に入ると、深みが違うし面白みも違う。それで各地の『山と道』の精神を共有しているコミュニティとともに、ULや自分たちの背景を伝えればと思ったんです。ハイクとライフとコミュニティをつなげたいということで『HLC』なんです」
「山と道HLC」は、全国のパートナーショップと協力して、ULについてのレクチャーやワークショップ、交流イベントを開催。主催者も参加者も同じコミュニティの一員としてハイキングを楽しもうというプログラムだ。現在、東北、北関東、関西、四国そして国境を超えて台湾まで、その輪は広がりつつある。
これまで日本各地の山をハイクしてきた夏目さんだが、実はその裏テーマにあったのが、自分たちが本当に暮らしたい土地を見つけるということだった。そして、最終的にいきついた答えが、「とことん鎌倉でいいな」だった。
「結局、どの土地もすばらしいんですよ。ローカルの仲間たちがつながって、コミュニティをつくっている。だったら、自分が暮らしている場所で、自分の素敵な場所をつくっていく、というのがシンプルでいいことだなと思うようになったんです。子どもも生まれて家族もでき、やはりここが愛すべき自分のローカルだと感じています」
「自分の生活を見直して、本当に必要なものを厳選して組み立てていくと、これだけ自由になれる、これだけ人間的な暮らしができるんだ、というのが『森の生活』です。ULの発想も、いろんなものを持ちすぎると自ずと不自由になる。かつ、その使い方もわからなくなってしまうということです」
まだまだマイナーであるULの楽しさ、その精神をもっと多くの人に知ってほしい。そのステップの一つとして、昨年始めたのが「山と道HLC」だ。
「全国各地をいろいろと回って、どこのローカルにも魅力と暮らしがあるということがよくわかったんです。それぞれのローカルに入って一緒に山に入ると、深みが違うし面白みも違う。それで各地の『山と道』の精神を共有しているコミュニティとともに、ULや自分たちの背景を伝えればと思ったんです。ハイクとライフとコミュニティをつなげたいということで『HLC』なんです」
「山と道HLC」は、全国のパートナーショップと協力して、ULについてのレクチャーやワークショップ、交流イベントを開催。主催者も参加者も同じコミュニティの一員としてハイキングを楽しもうというプログラムだ。現在、東北、北関東、関西、四国そして国境を超えて台湾まで、その輪は広がりつつある。
これまで日本各地の山をハイクしてきた夏目さんだが、実はその裏テーマにあったのが、自分たちが本当に暮らしたい土地を見つけるということだった。そして、最終的にいきついた答えが、「とことん鎌倉でいいな」だった。
「結局、どの土地もすばらしいんですよ。ローカルの仲間たちがつながって、コミュニティをつくっている。だったら、自分が暮らしている場所で、自分の素敵な場所をつくっていく、というのがシンプルでいいことだなと思うようになったんです。子どもも生まれて家族もでき、やはりここが愛すべき自分のローカルだと感じています」
THE PADDLER PROFILE
夏目彰
1973年岐阜県出身。30代半ばまでアート関連のメディアのプロデューサーとして活躍。2011年、鎌倉で「山と道」をスタート。「ウルトラライト」と呼ばれる軽量なギアに特化したハイクと登山用のプロダクトを開発して愛好者から人気を博す。