PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FOOD BATON ラ・ボッテガ・ゴローザ 後藤俊二さんのイタリア料理

海や山、自然に恵まれた湘南には、季節折々の旬な 食材が集まる。
その食の豊かさにひかれて、この地に暮らす男達は多い。
食のバトンがつなぐ、湘南のテーブルストーリーに耳を傾けてみよう。
今回、エルルカン ビスの伊東淳一さんから、フードバトンを引き継ぐのは、
「ラ・ボッテガ・ゴローザ」の後藤俊二さんだ。

「#006エルルカン ビス伊東淳一さんのフランス料理」はこちらからはこちらから

Photos : Pero  Text : Paddler

イタリア料理に救われて

湯河原駅から、タクシーに乗ってミカン畑の小山を抜けて行く。夏も真っ盛り、ミカンの実はまだまだ小さいながらも、木々の葉は青々と茂っている。向かった先にあったのは、白壁の小さな一軒家。こじんまりとした庭には柑橘類やハーブが実っている。

「うちにはイタリアをよく知っているお客様が多くいらっしゃいますが、イタリアのプライベートな空間に来たみたいだ、とおっしゃいます」と、出迎えてくれたのは「ラ・ボッテガ・ゴローザ」のオーナーシェフ後藤俊二さんだ。

2010年に店を構えて以来、湘南はもとより東京の食通がリピートするイタリアンレストランとして人気を呼んでいる。料理はすべてコースで完全予約制。近隣の山海の旬の素材を、後藤さんが極上のイタリアン料理に昇華させる。本日テーブルに登場したメニューの中でも目を引いたのが、前菜の盛り合わせとメインの金目鯛の魚料理だ。

スイカのサングリア、トスカーナの郷土料理パンツァネーラ、リコッタチーズと枝豆のパテを添えたトウモロコシのポレンタ、沖縄の島豚の頭肉のソップレッサータ、季節野菜のマリネ……、色とりどりな前菜がひと皿に。そして、湯河原でも華の有る魚の金目鯛づくし……、トマトで煮込んだ骨付きグアゼット、オマール海老の殻で煮出したソース添えソテー、ハラコのパテ、そしてナスとトマトの付け合わせ。

どれも後藤さんのセンスと職人ワザに裏打ちされた絶品。見た目は華やかだが、自然と舌になじみ、すとんと胃袋に落ちていく。奇をてらわずに、ストレートにおいしい! と感じられる。どこか安心できる味と言ったらいいだろうか。この不思議な魅力は、後藤さんのイタリアでの原体験から生まれた。↙︎
湯河原の小高い山の上に店を構える「ラ・ボッテガ・ゴローザ」。隠れ家のような店内は、まるでイタリアの民家のような雰囲気だ
庭にはハーブやベリー、レモンの木々が茂る。もちろん料理にも生かされる。「イタリアの修業時代に好きになったリグーリアの風景に似ているんです」と後藤さん
昼夜ともに8500円と10000円のコースのみで完全予約制。「ワインは5000円くらいからが中心ですが、十分楽しんでいただけるものをそろえています。イタリア人のようににぎやかに食事を楽しんでいただきたいですね」
湯河原で自分がやりたい料理を

愛知県瀬戸市出身の後藤さんは、「自分で何かを一から作り上げるような道を目指したい」と高校卒業後に料理の道へ。パテシィエの修行を経て、フレンチレストランの門を叩いた。当時は西洋料理といえばフランス料理という時代。だが、後藤さんにはしっくりこなかった。

「フランスの三ツ星レストランで修行をして帰ってきた料理人が多かったのですが、その料理は日本人の生活とかけ離れているんです。フランス人だって、三ツ星の料理をいつも食べているわけではない。まず、そこに違和感を感じました」

大量のバターを高価なワインで極限まで煮詰めてソースを作り、ひと皿の料理を完成させるような世界。「それはそれですごい」とは思ったが、後藤さんの舌には合わなかった。西洋料理の世界を志す若者にとっては、小さからぬ挫折だったろう。そんな時に、後藤さんを「救ってくれた」のが、イタリア料理だった。

「当時、イタリアで修行された方が、ちらほら帰国されたきたんですね。それで初めてイタリア料理を食べてみて、『これだ!』と思いました。日常のヨーロッパ料理という感覚を初めて知ったんです。これなら自分も大好きだし、自信を持って追求できると思いました」

西麻布のイタリアンレストランで2年間働き、イタリアへ。2年間、本場で修行をする中で、後藤さんが魅了されたのが、イタリアの田舎料理だった。

「僕も若かったので、最初はミシュランの星が付いている店とかに魅せられてしまって、お金もないのに無理して食べ歩いたんです。確かにすごいけど、だんだん飽きてくるんです。どこに行っても似たような料理で。ですが、ある時、田舎へ行って食べたら、シンプルなんだけど美味しい! 都会のレストランは、華麗さを装うために大事なところをそぎ落としているんだと、気づいたんです。これではいかんと思いました」

イタリアの田舎に「イタリア料理の原型」を求めた後藤さんは、帰国後、東京・青山に自分の店をオープン。以後、都内でも指折りの人気店として繁盛した。

「毎日があまりにも時間がなさすぎるというか、とにかく走り続けていて……。その当時はスタッフも何人もいて、自分が指揮をしながら、任せてやっているんですが、人を通して表現しているということは、当然ながら、自分がやりたい料理は薄まってしまう」

そんな焦燥感にかられる中、店の立ち退きがきっかけとなり、新しい場所を探すことに。そして、出会ったのが、湯河原の地だった。

「ここは、僕が修行時代にすごく好きになったイタリアのリグーリアの風景に近かったんです。プライベート感あふれる庭にレモンの木があって、ミカン畑をずっと相模湾に向けて見下ろすような風景が」

湘南の豊かな食材から生まれるイタリアの田舎料理。後藤さんの食体験と人生経験があってのたまものだ。

自分がやりたいと思う料理にフォーカスするために、そして客に心いくまで楽しんでもらうために、目が届く人数しか予約を取らない。

「お客様が、食事の感想や楽しかったことを手紙に書いてく送ってくれることもあります。すごくやりがいになりますね。自分の信念というか、やりたいことが、湯河原に来てから、よりできるようになりました」
「40代を過ごした東京、50代をこれから過ごしていくという湯河原で、自分の信念、やりたいことにフォーカスしていきたいんです」
庭の緑が厨房の窓ガラスに映り込む。休日の昼下がりに、ゆったりと食事を楽しみたい。店には、そんな空気が漂っている
「自分の想像以上にお客様が期待してきてくれる。遠方の方やリピーターも多い。お客様との結びつきがすごく強くなることにやりがいを感じます」
WHERE THE NEXT?
後藤さんオススメの一軒は?

中国旬菜 茶馬燕 (藤沢)

「夫婦ともに大好きな中華料理店です。シェフの中村さんは、中国にも相当食べ歩きに行きとてもとても勉強をしていて、現地感を外さない料理を藤沢という街で表現しています。定番の中華料理でも、やはり彼らしさがある」(後藤)
ラ・ボッテガ・ゴローザ
神奈川県足柄下郡湯河原町鍛冶屋832-19[MAP]
TEL. 0465-62-6949
OPEN. 11:30〜13:30、17:30〜20:00
CLOSE. 不定休

http://www.bottega-golosa.com/