THE PADDLER 湘南で自分らしく人生を切り拓いてゆく男たちを紹介

THE PADDLER | 007 Mr.Takashi Kobayashi 小林 崇さん
ツリーハウスクリエイター|鎌倉

湘南には、自分らしく人生を切り拓いていくために漕ぎ出す人たち=THE PADDLERがいる。そんな男たちの物語。
第7回は鎌倉を拠点に世界を飛び回るツリーハウスクリエイター、小林崇さんが木の上で学んだこと。

Photo:Taisuke Yokoyama  Text:Paddler

図面がいらないツリーハウスづくり

神奈川県茅ヶ崎市の「市民の森」にあるツリーハウス。大きな木の上に、枝を利用しながらつくられた小屋で、かなり高い位置にある。天気が良ければ富士山も見える素晴らしい眺望だ。「少し小屋が斜めになってきたね」と、宿り木となっているナラの木を見上げているのは、この小屋をつくった張本人、鎌倉在住のツリーハウスクリエイター、小林崇さん。2008年につくって以来、年1回はメンテナンスなどで訪れているという。

「ここは初めて行政の依頼、つまり税金でつくったものです。この公園を管理していたボランティアのグループ『市民の森ワーキング』が、私を“地元に住んでいるクリエイターだから”と指名してくれました。そして、当時の市長に直訴して実現したんです。行政の仕事は管理や安全面など、クリアしなければならない課題が多いけど、彼らがよくやってくれています」

これまで世界中に100個以上ものツリーハウスをつくってきた小林さん。依頼があれば、まずは現地に足を運び、森や林を見る。ツリーハウスをつくるのは木の上なので、実際に登ってみて、そこからの視界を確認してみる。海が見えたり、山が見えたり。自由に選べるならば、結果的に一番大きな木になることが多い。

場所を決定すると、インスピレーションを働かせていく。小林さんの仕事には図面が存在しない。だから「自由に変化させていきます。夕日がきれいに差し込んでくることがわかれば、いきなり窓をつけちゃったり」とやわらかな発想で組んでいく。

小林さんのツリーハウスづくりは、現地で手伝ってくれるビルダーや工務店を募って進められる。小林さんが指揮を取りながらも、当然、そこに集まる人たちの個性はバラバラだ。

「現地で手伝ってくれるローカルの人たち次第で、変わっていくことがほとんどです。当初使う予定だった色がなくて、そこにある色で代用しているうちに、“その色のほうがいいか”など、予想外の化学反応が起きます。実際に手を動かしてくれるビルダーの個性も出てくる。それでいいと思っています」

この作業を通して、自然とコミュニティが出来上がっていく。

「工事とは違って、現場の作業中も、誰でも入れるような雰囲気にしています。お手伝いや差し入れ、ただ遊びに来るのも大歓迎」

小林さんがすべてのツリーハウスを逐一管理することもできないから、現地の人との共同作業は、その製作過程で“その後を安心して任せられる人をつくる”ことにもつながっている。一緒につくりあげたという愛情と達成感は大きいのだ。↙︎

“ツリーハウスの上から見た景色を次世代に伝えていきたい”

生まれるツリーハウスがあれば、無くなるツリーハウスもある

公園や幼稚園、フェス会場、大学構内、個人宅など、さまざまな場所やクライアントから、ツリーハウス製作の依頼がくる。だからその使用目的も多岐にわたる。

「ツリーハウス自体が主役ではなくて、引き立てる脇役でいい。赤ちょうちんみたいな、集まるための目印でいいと思っています。みんながいろいろなことを考える場所になってほしい。ここからまた新たな出来事が始まる、そんなスタート地点になってほしい」

現在は新しいツリーハウスをつくりながら、すでにあるものをメンテナンスする日々。なかにはオーナー側の体制が変わって管理が難しくなって取り壊すというツリーハウスや、単純に古くなって朽ちていくものもある。これからは「どう始末していくか」も大切だという。

「最近は、つくるという楽しい話と、無くなっていくというさみしい話が混在するようになってきました。無責任かもしれませんが、壊れたら壊れたでしょうがない。それはツリーハウスに限らず、人間も、自然も同様です。ずっと同じ状態でいられるわけもないし、ずっと上り調子でいられるわけもない。そういうことがわかっただけでもツリーハウスをつくり始めてよかったと思います。実際、物理的にも新しいものつくり続けるのは難しい。だからこれからは、自分が“ツリーハウスの上から見てきた景色”を次世代へ伝えていく作業に力を入れていきたいと思っています」

小林さんは、静岡県東伊豆町の稲取出身。「東京に溺れかけたこともあった」が、茅ヶ崎や平塚、鎌倉など、湘南に移り住んで約30年。陸と海の境目が好きだという。

「世界各国の現場でも、海が近ければ、隙を見てサーフィンしに行くこともあります。陸地はいろいろなしがらみがありますからね。でも沖に出てしまえばそんなことは気にしない。木の上もそうかもしれない」

ツリーハウスは、もともと自分に居場所がないと感じていたアメリカのヒッピーたちが自分たちの居場所を求めて山に入ってつくった、という謂れもある。海の上も、木の上も、小林さんにとってはピュアな自分に戻れる原点のような空間なのだ。

ESSENCE FOR HIS LIFE

伊豆・稲取

小林さんの生まれ故郷。ツリーハウスをつくり始めてから、「稲取の山や川で遊んでいた原風景があったことに気がついた」という。

ホーロー看板

岩の上の松に庵が描かれている。雑貨屋で偶然出合ったこのひとつの看板が、小林さんを前身の古着屋開店へ導き、ツリーハウスづくりへと誘った。

ワールド・ツリーハウス・カンファレンス

ツリーハウス界の第一人者、ピーター・ネルソンに誘われて、第1回「ワールド・ツリーハウス・カンファレンス」に参加。大きな刺激を受けた。

LAND ROVER 「DISCOVERY」

日本全国を泊まりながら移動するための愛車。現在は牽引するトレーラーに乗せるための小屋を製作中。春に完成したら、全国をキャラバン予定。

THE PADDLER PROFILE

小林 崇

1957年、静岡県生まれ。日本のツリーハウス第一人者。毎年オレゴン州で開催されるツリーハウスの国際イベント「WTC(World Treehouse Conference)」に日本から唯一参加するようになる。2000年、ジャパン・ツリーハウス・ネットワーク(JTN)を立ち上げ、2005年には株式会社ツリーハウス・クリエーション(THC)を設立。現地の風土や人、素材を活かしたストーリー性のあるツリーハウスは世界的な評価も高く、国内はもちろん海外でのプロジェクトも多数進行中。既存の枠に囚われない自由で豊かな世界観を提案し続けている。