PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

SPORTS&OUTDOOR トレイルランニング –後編– 石川 弘樹さん 「トレイルを走ってみたい方へ」

近所にトレイルさえあれば、今日からでも始められる手軽さもトレイルランニングの魅力。
とはいえ、山がフィールドになるので、街よりもリスクが伴うことも事実だ。
後編では、競技の魅力に加え、必要な道具、気をつけるべき危険やルール&マナーを石川弘樹さんから学ぼう。

#004 トレイルランニング -前編-はこちらから

Photos : Yasuma Miura  Text : Kei Ikeda

トレイルは傾斜のある不整地で舗装路ではないので、グリップ力が高く、耐久性のあるトレイル専用のシューズで走りたい
——トレイルランニングとは、どのようなアクティビティなのでしょうか。
「トレイル」とは、登山道や林道、遊歩道などの自然の中にある山道を指す言葉です。「トレイルランニング」は、この山道を走ること全般を指します。年々国内でのこのアウトドアスポーツをする人は増え続けていて、競技人口は20万人とも言われています。

——競技の種類はあるのですか?
「トレイルランニングレース」に加え、「スカイランニング」と呼ばれる標高の高いトレイルをコースに設定して行われるもの、「バーティカル」という短い距離で累積標高をかせいでひたすらガツンと登るものなど、国内外様々なカテゴリーがあります。

——レースでは、どのくらいの距離を走るのですか。
マラソンのように「42.195km」という規定はなく、レースによって距離の設定は異なります。短いものでは数kmから、長いと100kmを超えるレースも数多くあります。国内ではまだ数少ないのですが、熟練者の間では近年「100マイルレース(160km)」と呼ばれるレースが人気を集めています。制限時間は30時間から48時間にもおよび、夜はヘッドランプをつけながら休憩時間もそこそこにひたすら野山を走り続けるレースです。現在、日本ではさまざまな距離や特徴を持ったレースが、年間400近くも開催されています。

——どういった部分がトレランの魅力なのでしょうか。
まず、街の騒音から離れ、森の音や鳥の声を聴きながら、山中を走ることの純粋な気持ち良さが第一ですね。必ずしも走り続けなきゃいけないわけじゃないので、苦しくなったら途中で歩いてもいいし、景色が綺麗なところがあれば休憩をしてお昼を食べてみたり、楽しみ方が自由なのもいいところ。あとは、この登りは頑張ろうと決めて走り切った時の達成感だったり、下りが続くときはこの悪路をどう攻略するか、長距離を走る際はペース配分はどうするかなど戦略的に考えるのも面白みの1つです。↙︎
このレースの完走タイムは17時間53分。つまり、ほぼ1日かけてゴールを目指す競技なのだ
出かける際の装備の一例。上の赤い袋から時計回りに、エマージェンシーキット(携帯ブランケットや常備薬など)、パワージェルなどの行動食、スマートフォン、軽量なヘッドライト、ウォーターボトル。バックパックも専用のものなら、軽くて走る際にも体にフィットし、暑い日も蒸れにくくて快適だ
——始めるために必要な装備を教えてください。
行く場所や時期によって装備は変わります。軽く走るくらいなら、ランニングができる服装に防寒用のウインドシェル、飲み物、あと携帯電話があればOKでしょう。携帯電話は緊急時に連絡がとれるし、地図にもなります。充電が十分かどうか要確認。場合によっては予備バッテリーも必要です。水分補給も重要なので飲み物も十分に持ちましょう。暑い時期には、直射日光を防ぐ帽子、サングラスもあるといいでしょう。

——1日中走るような時には装備はどう変わりますか?
基本の装備に加えて、テーピングなど怪我の応急処置に使う装備をまとめたエマージェンシーキット、軽量なヘッドライト、行動食(エナジーバーやお菓子などの軽食)、雨が降りそうであればレインウエアも持ちます。

——どのようなことに気をつけるといいでしょうか。
ロードでのランニングとの大きな違いは、山はなんでも揃う街とは違う自然のフィールドだということ。「ランニング」感覚ではなく、「登山」だと思って臨んでいただきたい。特に道迷いと天候には敏感になった方がいいでしょう。僕は道迷いに関してすごく臆病なので、山ではマメに地図を確認します。分岐のたびに確認するくらい慎重でもいいと思います。天気も街より変わりやすく、気温の変化も激しいので、防寒対策として薄いウインドシェルやレインウエア、着替え、標高が少し高いとろへ行く際には、軽量のダウンシャツなども携行してください。最近のシェルは100gちょっとと軽量です。また、エマージェンシーキットとライトを持つなど、万が一の時に対処できる用意もしておきましょう。↙︎
今や携帯電話はトレイルランニングのマストアイテムだ。「ジオグラフィカ」というアプリが石川さんのおすすめ。地図としてだけでなく、山中で電波がなくなってもGPS信号を拾って現在位置がわかる優れもの。出発前にコースを設定すれば、目的地までの距離や標高差も一目瞭然だ。しかも無料!
雨が降りそうな日は防水性の高いレインシェル(左)、風が冷たい日や強い日などは軽量なウインドシェルの上下(右)を携行する
——湘南エリアでトレイルランニングを楽しめる場所はありますか?
手軽に体験してみたいならば、鎌倉エリアは標高も低く、駅や街も近くてアクセスもいいトレイルがあるのでおすすめです。コース取り次第で長く走ることもできます。腰越から鎌倉駅方面、大仏から北鎌倉方面や逗子方面、三浦方面に続くトレイルもあります。より本格的に楽しみたいなら、大山のような丹沢エリアに足を運んでみるのもいいでしょう。

——ならではのルールやマナーはありますか?
里山である鎌倉の山道は道幅が狭いため、他の利用者とすれ違う際は接触やランナーのスピード感が脅威に感じられることもあります。すれ違う時は、「走らず歩いてほしい」ですね。また、鎌倉エリアのトレイルは生活圏が密接している「生活道」でもあります。ランナー以外にもたくさんの人が利用しているので、特にルールとマナーはしっかり守って走ってください。挨拶をする、散歩や登山をしている人がいたら道を譲る、路上駐車はしない、大勢で走って騒がない…。まあ、当たり前のことを当たり前にしてもらえれば問題ありません。

——「山を走る」というとハードなイメージがあります。若くなくても始められますか?
トレランは生涯スポーツだと思います。楽しみ方次第で、誰でも、いつまでも楽しめるスポーツだと思います。競技として考えると、やはり20代、30代が走りは強い。でも、距離が長いので経験や戦略面も結果に大きく影響するのがトレランのおもしろいところです。レースをコントロールできる精神力や経験も大切なので、40代のトップ選手も多く活躍しています。箱根駅伝で活躍していた若いランナーでも、ベテランランナーに勝てないくらいなので。ひと昔前には、58歳で世界大会に勝ったランナーもいたんですよ。

——では、まずはなにから、どうやって始めたらいいでしょうか。
湘南エリアでランニングをしている方なら、難しいことは考えずに普段ロードや海沿いを走っているコースを近所のトレイルに変えてみましょう。初めてなら、全部を走らずに歩いてもいいので、まずは気軽にトレイルに出かけてみてください。より本格的な山に行ってみたいなら、フィールド周辺の観光名所や下山後の温泉、地元の食事なども含めた旅として計画を立ててみましょう。ストイックに走ることだけではない、トレイルランニングの魅力を感じてもらえると思います。
山の強い陽射しや頭部の保護にはキャップが有効。サングラスは陽射しからだけでなく、虫や枝などからも目を守る
路面状況に合わせて選べるよう、石川さんは数タイプのシューズを用意している
<イベント情報>
「六甲山トレイルランニング15キロ」
日時:3月31日(土) 10:00〜13:30
会場:毎日登山(神戸・北野坂)
距離:15km
定員:20名
参加費:3,000円(ドリンクサービス付き。後半のスライド&トークの参加費含む)
https://everyday-kobe.com/newstopics/600
六甲山を石川さんと一緒に走るトレイルランニングセッション。スライド&トークショー終了後は、オーガニックコーヒーや六甲山のクラフトビールも味わえる。

「生涯続ける、日常のトレイルランニングとは」
日時:3月31日(土) 15:00〜16:00
会場:毎日登山(神戸・北野坂)
定員:50名
参加費:1,000円(六甲山クラフトビール or ハーブティー付き)
https://everyday-kobe.com/newstopics/600
トレイルランニングを生涯スポーツとして、日常的に楽しむには? をテーマにしたスライド&トークショー。終了後は六甲山クラフトビールと共に歓談を楽しもう。

「北九州平尾台トレイルランニングレース」
日時:4月15日 7:30〜
会場:福岡県北九州市 北九州国定公園 平尾台
距離:40km
http://www.hiraodai-trail.com
石川さんがプロデュースするレースの1つ。すでに定員に達してエントリーは締め切ってしまっているが、レース観戦は可能

「奥三河パワートレイル」
日時:4月30日
会場:愛知県奥三河エリア
距離:70km
http://www.powertrail.co.jp
こちらも石川さんプロデュースで開催されるレース。豊かな自然とパワースポットが点在する、奥三河エリア全体を楽しめる設計となっている。
鎌倉のトレイルは地元住民の生活圏に密着した「生活道」でもある。とくにマナーやモラルを守りながら走っていただきたい
心拍数が手元で確認でき、走行距離やスピードが計れるGPS搭載ウォッチ。標高や気圧表示はもちろん、長い時間のログも取れるトレーニングや遊びの際の強い味方

PROFILE

石川 弘樹

プロトレイルランナー。一部の人々のみで競われていた日本の山岳レースシーンに、欧米のスタイルを取り入れたアウトドアスポーツとしての「トレイルランニング」を広めた第一人者。現在は、ランナーとしての活動はもちろんのこと、日本トレイルランナーズ協会の副会長をはじめ、さまざまな形でトレイルランニングのさらなる普及活動に取り組んでいる。ちなみに、レース期間外にはサーフィンも嗜む。ホームポイントは大磯。著書に「トレイルランニングを楽しむ」(地球丸)、「トレイル トリップ」(講談社)、DVDに「From The Trails」(WOOD HOUSE studio)がある。

主なスポンサーは、patagonia、montrail、MAGMA、GREGORY、NISSAN X-TRAIL、PowerBar、SUPERfeet、New-HALE / PRO-TEC、BEACH 葉山、MUSASHI