江ノ電・江ノ島駅から江の島へ伸びる洲鼻通り商店街。大手チェーン店の進出やリスタイリングをする店舗が増える中、昭和12年(1937年)創業当時の姿を今に残し佇むのが『湘南堂』だ。訪れる誰をもどこかホっとさせるその店構え同様、かつてからのパンの味もまたしっかりと３代目・五島敬介さんによって守り継がれている。

ガラガラと引き戸を開けて入る店内は、いたってシンプルだ。背後に工房、店先には昔ながらのガラスショーケースが備わり、店主を前にパンがずらりと並ぶ。店主の手からパンを受け取る対面販売スタイルも、創業以来変わっていない。

カレーにベーコンチーズ、あんこにクリーム、焼きそばやしゅうまいパンといった調理パンや菓子パンが約30種。ほんのり甘い柔らかな生地に包まれた懐かしい味は、ロゴ入りのビニール袋にパッケージされ、地元の幼稚園や中学校へも配給されている。湘南堂は地元の人にとって、幼い頃からのソウルフードであり、世代を超えて親しんで来た素朴な名店だなのだ。

一番人気といえば、あんドーナッツ（140円）とカレーパン（151円）だ。これらを求めて都内から足を運ぶお客さんも少なくはない。また一押ししたいのは、焼きそばパン(173円)。パンに焼きそばを挟んだものではなく、焼きそばをパンに練りこんで焼き上げたオリジナルだ。土・日には、地元「浜野水産」の釜揚げしらすを使ったしらすピザ（180円/水揚げされた時のみ）や季節ごとの限定商品も顔をのぞかせる。ひっきりなしに訪れる客足に、売り切れごめんも。開店すぐの11時半を狙って行きたい。

「時代に逆らっていると言われても、私は合理性や生産性ではなく、昔ながらの味と対面販売を守り、お客さんとのふれあいを大切にしてゆきたいんです。そんな思いを息子にも受け継げたら」

急逝した父を継いで18歳でこの道に入った五島さん。先代たちへの敬意と代々家族で通うローカルたちへの思いが、この店のパンのおいしさであり、湘南の輝きになっている。