古き良き日本の風情や季節の移ろいを大切にした洗練された佇まいには、隅々までオーナーの美意識が行き届く。無駄を省いた温もりある木造りの室内には、骨董を中心に地元作家やこの地にゆかりのあるアーティストの作品がしつらわれ、時よりモダンなフォルムの美しいチェアや照明が心地よく覗く。

良質な湯が湧く風呂場は、敷地内の一番高いところに。ここから眺める十石峠をはじめとする箱根の山々の四季折々の景色も素晴らしい。中でも特筆すべきは、料理へのこだわりだ。真鶴をはじめ、良質な近海の幸と地元の無農薬野菜を主にした料理は、奇をてらうことなく、素材の持ち味を引き出した「本物」。食を求めて訪れる顧客も跡を絶えない。これからの季節は、蟹や松茸の料理が楽しみだ。

どこにいても感じられる美しい自然、香や灯のほのかな気配、料理の美味しさに触れる器や漆器、そして絶妙な湯加減。五感のすべてをさりげなく刺激し、心に深く刻まれる心地よさがここにある。オーナーのたゆまぬ心遣いと工夫が息づく特別な宿だ。