PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FEATURE この町に住みたい : 二宮町
第4話・アットホーム&グローバルなコミュニティスポット
案内人 Mr. 宮戸 淳 | 太平洋不動産

今、二宮がなんだか気になる。湘南内外からの移住者が続々と増えている。
こだわりのパン職人、世界で活躍する画家や写真家、東京で力を蓄えた料理人……
彼らの背景を探ると、一つの答えにたどり着く。
導き人が「太平洋不動産」2代目の宮戸 淳さんだということ。
二宮に生まれ、この土地を愛し寄り添う彼は、不動産屋という領域を超え、
無邪気なまでにこの町の魅力と可能性を発信し続けている。
時代、文化、ヒトの新旧を心地よく結び、二宮のニュースタンダードを紡ぐ人、
宮戸さんに4話に渡りこの町の魅力を案内してもらおう。

Photos : Koki Saito  Text : Paddler

点から線へ、そして面へ! 今二宮町では、新旧のヒトとカルチャー、そして町の内外をつなぐコミュニティスポットが続々と誕生している。魅力的な移住者たちと温かくオープンマインドな二宮ローカルたちのクロスオーバーで、町の輝きが増す二宮。そんなアットホーム&グローバルなコミュニティの現場の一つへ宮戸さんが案内してくれた。そこは、太平洋不動産が管理する築60年の古民家。ここに引っ越してきた “お魚料理人” 、甲斐 昂成(こうせい)さんが、自宅スペースを利用し “住み開き” スタイルで主宰する「食」を軸にしたコミュニティスペース、「Kai’s Kitchen ninomiya」だ。二宮の住人たちが集まる食事会にお邪魔した。
今年6月に、辻堂からやってきた甲斐さんは、第一産業の再生から飲食店立ち上げまでを一貫して行う都内某企業でのキャリアを経て独立。その職場で最後に向き合った「流通に乗らない魚」の価値を見出すプロジェクトに傾倒したことを転機に、現在「無価値の価値化」を軸にした食に関わる活動を精力的に行っている。中でも、「数がまとまらない、旬じゃない、見慣れない」などという理由だけで廃棄される “湘南の地魚” に目を向け、そのおいしさを紹介する週末だけのレストラン「Kai’s Kitchen tsujido」やケータリング「出張 お魚ビストロ」のファンが多い。

誰もが気軽に集えるコミュニティの場

——昼のみマルシェの「たびするくま」や “ 誰もがお店を持てる” をコンセプトにしたシェアスペース「ハジマリ」など、ユニークな二宮のイベントやコミュニティスポットが盛り上がっているようですね。「Kai’s Kitchen ninomiya」は、どんな場所なんですか?

Mr. 宮戸:
ここは昭和30年代築の店舗付き古民家で、当時は落花生屋だったんです。歩道沿いの店頭側にある「土間」は、当時の名残りなんですね。20年以上前、大家さんが住まれていた頃は、ガレージとして使われていました。甲斐さんは、内外の繋がりがフラットなこの土間で、ワークショップの開催や、今はまだ不定期ですが、料理をもてなす「食」イベントをしています。工藤さん( 第1話でご紹介)もそうですが、自宅の一部を開放してソーシャルな場にする“住み開き”の一例ですね。

——ここを飲食店にすることもできたのに、なぜ甲斐さんはこのスタイルでのコミュニティの場にしようとしたのですか?

Mr. 甲斐 :
僕は、料理を作ることを仕事にしていますが、僕の仕事は「人とのつながり」で成り立っているものだといつも実感しています。なので、この場所を活用することで、僕だけでなく皆さんにもそれを還元できると思ったんです。いずれは飲食店の機能も取り入れようとは思っていますが、人と人が繋がる場所となる仕掛けを持ってここを活かしてゆきたいんです。この場所を通じ、二宮町外からの訪問者も増え、この町を知ってもらえるきっかけにもなれば、とも願っています。地元の人もフラリと立ち寄れる親近感とカジュアルさがあり、ここで町内外の交流が生まれる、という感じでしょうか。ここでのイベントなどの情報は、ホームページやFacebookなどで告知をしていきます。

——二宮のコミュニティのもり上がりは最近のことなのですか?

Mr. 宮戸:
ここ数年で「楽しそうな町」から「楽しい町」になってきたと感じています。これまでは「二宮町って何もないよね」と、誰もこの町に何も求めなかった中で、移住者の方が素敵なパン屋をオープンさせたんです。そうしたら町に対する町民の視線がポジティブに変わったんです。たった1件のセンスの良い店で、街に変化が現れたんですよ。その後、「旅花」さんというコーヒー屋ができ、「たびするくま」というマルシェが始まり、「二宮をもっと一緒に楽しもう」というムードが高まりました。「ハジマリ」なんて、まさに「今から始めよう!」とする人たちのための場。そんな場所はこれまでなかったんです。移住者たちがきっかけではありますが、彼らのおかげで地元の人たちの気持ちが変わり、ソーシャルな動きが活発になってきているんです。

——小さな町ほどよそ者を嫌う、という既成概念を心地よく裏切ってくれる二宮ですね!

Mr. 宮戸:
ひょっとしたらほかの街ではローカル、移住者、週末客と壁ができがちかもしれませんが、二宮は派閥もなく、みんな穏やかだし、オープンなんですね。二宮町民は、みんな嬉しんですよ。何の変化もなかったので(笑)。↙︎
可能性を秘めた町とその価値を見い出す人たち

——藤沢・辻堂での週末レストランも好評な甲斐さんですが、辻堂から二宮に越されてきた動機は?

Mr. 甲斐 :
この家の元住人、「SKETCH」のデザイナー、関根将吾さんとの縁なんです。彼が都内からここに移住された時、この家づくりを手伝ったんです。ペンキ塗ったりね。その時から、この町の雰囲気が気に入っていました。関根さんとは、以前から「廃材を組み合わせて新たな価値を創り出す」という彼の「アップサイクル」のコンセプトと、僕の活動のコンセプト、「魚を無駄にしない」、「無価値の価値化」が一致してて、意気投合してたんです。彼が仕事の事情でここを離れる際、その素敵な活動拠点が見知らぬ人の手に渡ってしまうのは惜しいなと思って。じゃあ、僕がここを引き継ぎ、僕らのコンセプトの活動拠点にします! となったんです。

ちょうどその頃、辻堂にいながら、どんな場所で次のステップを踏むかを探っていました。賑わう湘南の中心部での活動もイメージしにくく、ましてや東京も問題外。いっそ、地元の九州・熊本に帰ってやるか? と考えていたところ、この町には人の温かさとか、食の豊かさとか、僕の故郷と似ているものがあると実感したんです。都心からたった1時間ちょっとのこの場所に! 二宮には第二の故郷的なムードがあるんです。都市中心部にはない、人の温かさ、自然の豊かさを感じられる場所。忘れかけていた大切なものをふと取り戻せる場所。

——町もしかり、このユニークな物件も決定打だったのでは?!

Mr. 甲斐:
それはありますね。この家に出会った瞬間に、この場所に人々が集まってくる映像がパっと見えたんですよね。ここに人がフラリと集まって、夕暮れ時にみんな一緒に飲んだり、地域内外の人がボーダレスに交流する場が。ここが特別な物件ということは、本当に日々感じながら暮らしてます。

Mr.宮戸:
この物件は、20年間も空き家のままでした。オーナーの娘さんが、私が書いた空き家活用の記事を読んで頂いた事がきっかけになり、この家の入居者を募集させて頂きました。その応募数がすごい数になってしまい、「どう住みたいか?」のプレゼン形式にしたほどだったのです。そんな多くの人が思いを寄せた物件であることを甲斐さんにはお伝えしました。でも、まさに入居を受け継ぐにふさわしい彼に、僕も運命を感じました。

——宮戸さんは甲斐さんのこのご自宅について、何か期待してたことはありましたか?

Mr.宮戸:
地域の人たちが喜ぶような場所になってほしいな、とは思っていました。この土間スペースを有効活用して、いろいろな人がここに集まり、コミュニティができてゆくような。誰が住むかによって町って本当に変わります。甲斐さんのような方が住んでくれたことはとても嬉しいです。見る人によっては、「なんだこの古い物件!」となってしまう可能性もあるし、請け負った不動産屋さんがそのポテンシャルを引き出せなければ、眠ったままになっていたかもしれません。↙︎
甲斐さんお得意の湘南で水揚げされた地魚と二宮野菜を使った滋味ある料理がテーブルへ。お刺身のアジとスミヤキは小田原、金目は真鶴から
新しい物語が始まる場所

——宮戸さんは単にお客さんに物件を紹介するだけでなく、「Kai’s Kitchen ninomiya」も含め、この町の様々なコミュニティスポットやイベントにもお誘いしているそうですね?

Mr.宮戸:
お客様に、二宮に移住した後、この町を楽しめることをイメージしてもらうためにイベントにお連れしたり、お客さんと似たような方が集まるコミュニティスポットにご案内したりしています。そうすることで、彼らが二宮町のコミュニティに自然と馴染め、仲間の輪も広がるんです。そこにお客さんの新たなライフスタイルの物語がスタートする。僕にとって、そこが物件を紹介した後の楽しみなんです。特別意識して仕掛けているわけではなく、とにかく僕自身がワクワクできて楽しいんです(笑)

——「Kai’s Kitchen ninomiya」でも、訪れる人たち同士が繰り広げる化学反応がどんな新しいストーリーを紡ぎ出すのか楽しみですね。

Mr.甲斐:
無から価値を生み出してゆく、作ってゆく、ということに興味を持っている僕としては、この場所を使って、何もないと思われている二宮を、おもしろい場所として知られるようにしてゆくこと自体をとても楽しんでいます。きっと周りのみんなもそうなのかと思いますよ。すでに何でもそろい、できあがってしまっている他の湘南の町より、これからの可能性に満ちた場所で活動し、魅力的な町をつくり上げてゆく1人になれたらと思っています。

Mr.宮戸:
この物件を通じて、SKETCHの関根さん、Kai’s Kitchenの甲斐さんと巡り合うことができ、価値が眠っていた住宅には、新たな価値が吹き込まれました。この「Kai’s Kitchen ninomiya」で、魚だけでなく、眠っていた人々の価値をもコーディネートする甲斐さんの新しい物語も始まります。


Kai’s Kitchen Ninomiyaのウェブサイト
http://kais-kitchen.shop/
二宮野菜、平塚の「丸八丸ちりめん」を使ったじゃこのピーマン炒めとかぼちゃの煮物も
相模湾で水揚げされた色々な魚で作った自家製のお魚味噌の旨味が利いた「冷汁」は大好評

二宮町で人気のコミュニティスポット
Photos by Mr. Jun Miyato

①「たびするくま」は、「二宮を路地裏からおもしろくする」をコンセプトにしたマルシェ。JR二宮駅南口の栄通りで偶数月に開催され、町内外から飲食や物販、ワークショップなどが出店。②「ハジマリ」は、チャレンジを始めたい人のためのシェアスペース。太平洋不動産と「KUMIKI PROJECT」の協働で、古い平屋を地域内外の人とDIT(Do it together)でつくり上げた場所。
③「shareffice THE CAMP」は、二宮初のコワーキングスペース。17時以降はキャンプ気分になれるおつまみとお酒を取りそろえるカフェ&バーに変身。仕事とプライベートの両者の充実を目指す。④「 コミュナルダイニング」は、百合が丘商店街にある「地域の囲炉裏端・縁がわ」をテーマとした共用の食スペース。仲間との料理や食事、食関連のイベントが楽しめる場所。

PROFILE

宮戸 淳 Jun Miyato

「太平洋不動産」店長、宅地建物取引士

不動産企業でのキャリアを経、父・宮戸慎一氏が二宮町で創業した「太平洋不動産」に入社。彼による「太平洋不動産」公式サイトやSNS、ブログでの情報発信が好評。中でも、独自の視点とオピニオンたっぷりに物件と町の魅力を発信する「くらしの情報」が人気だ。古民家や古い空き家など、ポテンシャルのある物件から、それらを再生させ暮らす魅力的な住人、興味深いイベントやスポットまで、リアルな二宮の今を紹介している。店長のブログ、「ハッピーにのみやライフ」https://ninomiya-life.comでは、公私ともに町のために精力的に活動する彼の姿が。

太平洋不動産
神奈川県中郡二宮町二宮167-3
Tel. 0463-73-3377
公式サイト https://taiheiyou-realestate.com