CITY GUIDE THE PADDLERが紹介するとっておきのスポット
GUIDE SPOT 老欅荘 小田原 | 茶室
箱根の山から伸びる尾根の先。箱根板橋駅近くに、相模湾を遠方に眺める緩やかな丘陵地に「老欅荘(ろうきょそう)」が佇む。ここは、今日の電力体制を築き上げた “電力王”と呼ばれた実業家、松永安左ヱ門氏が終の棲家にした邸宅だ。 75歳という高齢で、戦後の電気事業再編に関わる審議会会長にも抜擢され、97歳まで生涯現役。数寄茶人「耳庵(じあん)」としての顔も持ち、ウィークデイは都内での仕事に明け暮れ、週末は茶事と妻と過ごす時間に徹底する男だった。 この邸宅の大きな特徴は、耳庵の「茶道は生活であり、理念ではなく、実践である」という想いから、どの部屋でも茶のもてなしができること。茶室だけでなく、客がはじめに立ち寄る三畳寄付、八畳和室(鎖の間)、台所にあたる水屋にまで、湯を沸かすための炉が切られている。 また、茶室のにじり口の寸法や区々の畳が入る広間など、耳庵らしい既成概念を覆す自由な発想が随所に見られる。建物全体も、数寄屋造りながら、八畳和室は田舎風民家造り。高級な龍鬢表(りゅうびんおもて)の畳に縁をあえてつけずに質素に見せたり、櫛形の陰を美しく障子窓に映し出す構造を工夫するなど、素朴さに隠れた独自の美が存在する。建築業界からも一目置かれる近代数寄屋建築でもあるのだ。 現在も、生きた茶室として一般に開放されている「老欅荘」。耳庵の想いを継ぎ、格式張らずここで茶を楽しんでみてはいかがだろう?
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「松永耳庵がお茶の嗜みを楽しんだ自邸。財産的なものは何も無いように見えるが美意識が隅々まで行き届く。茶事をするならここに限る」
高橋台一さん