CITY GUIDE THE PADDLERが紹介するとっておきのスポット

GUIDE SPOT 小田原文化財団 江之浦測候所 小田原 | 美術館

Photos : Nobuo Yano  Text: Paddler

心身と自然、アートの境界が消え、視界に映るモノと素直に向き合え、感じ取ることができる静謐な世界。2017年、小田原・江之浦に誕生した「小田原文化財団 江之浦測候所」(以下 江之浦測候所)は、そんな感覚を体験する場所だ。

小田原に暮らす人でさえ、これまでこの土地に足を運ぶ機会があった人はそう多くはないはずだ。みかん畑とヤブが広がる急斜面が続く山腹、ポツリポツリと現れる民家。その合間に佇む根府川駅は、JR東海道線で唯一の無人駅でも。そこからさらに湾曲する山道を進んで現れる広大なみかん畑であった場所に「江之浦測候所」はある。相模湾の大海原を眼下にするここは、日本を代表する現代美術作家、杉本博司さんがつくり上げた “国内外への文化芸術の発信地となる場” だ。

構想10年、工事10年の歳月をかけ、杉本さん自身が敷地全体を設計した3000坪ものランドスケープ。そこは、古代までに遡る名石を配した庭園、海抜100mに築いた100mあるギャラリー棟、近隣の石丁場で発掘された江戸城に使われた巨石などを用いた石舞台や、相模湾に浮くように見える光学硝子でできた舞台、千利休作とされる「待庵」を写した茶室などから構成される。

驚くことに、それらすべての設計には、「人類とアートの起源」をテーマに冬至や夏至、春分や秋分の光など、生態リズムに深く関係する季節ごとの太陽の照射が詳細に計算され取り入れられている。「古代人が意識を持ってまずしたことは、天空のうちにある自身の場を確認する作業であった。そしてそれがアートの起源でもあった」と言う杉本さんの言葉にあるように、江之浦測候所は、季節、時刻、天候によって表情を変える自然と陽光と建築物が織りなす見事な光景に出会う場所。目に映り、心身で感じるすべてがアートあることに気づかされる。

「自らの集大成となる作品」と杉本さんが表現する江之浦測候所は、まだ進化を続けている。だがその進化とは「1万年後まで続く、未来の遺跡」のカタチだ。新しくありながら古が偲ばれるアートの世界。何度訪れても異なる表情と感覚に驚かされるスペシャルな場所だ。

DATA

小田原文化財団 江之浦測候所

神奈川県小田原市江之浦362-1
Tel. 0465-42-9170(小田原文化財団)
OPEN. 10:00~13:00 / 13:30~16:30(1日2回、各回予約・定員制)
CLOSE. 火・水・年末年始・臨時休館日

*予約は小田原文化財団公式ウェブサイト、江之浦測候所チケット購入ページより。
*入館料は3,000円(税別)/人(ウェブサイトでの事前購入の場合)。中学生未満は入館不可。
*上記営業時間は、10月1日より。この日より見学エリアが広がり、杉本さんがこれまで蒐集してきた5億年~2千万年前の化石を集めた「化石窟」や竹林、「姫榊の森」を鑑賞できるようになる。

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「杉本博司さんが構想された美術館です。岡山での修行時代に、瀬戸内・直島で初めて杉本さんの作品を見て衝撃を受けました。彼が小田原で美術館を造るというので、心待ちにしていました。予約制で、ゆっくりと鑑賞ができます」

石井隆寛さん