PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

SPORTS&OUTDOOR シーカヤック・海洋冒険 -後編- 八幡 暁さん 八幡流シーカヤックの楽しみ方

太平洋を1万キロ以上にわたり単独で人力航海を成し遂げた八幡さん。
海洋冒険家ならではのシーカヤックの楽しみ方を教えてれた。

>>「シーカヤック・海洋冒険 -前編-」はこちらから

Photos : Yasuma Miura , Satoru Yahata  Text:Paddler

「海は世界をつなぐ道路。だからシーカヤックがあればどこでも行けますよ!」
大海原を1万キロ以上にわたり単独航海をした八幡暁さんだが、なぜ旅の足として、シーカヤックを選んだのだろうか?

「シーカヤックは海を歩く道具なんですよね。僕らの暮らしは飛行機や鉄道ができて便利になったけど、百何十年前までは海を渡っていた。海は全部が道路でどこを通ってもいいから、とても自由な乗り物なんですよ」

手漕ぎの舟は、太古の昔から「海の民」にはなくてはならない道具だった。狩猟や移動、交易などの暮らしを支えてきた。今でも八幡さんが旅をした南太平洋の島々の人々にとっては大切な足だそう。とりわけアリューシャン列島のエスキモー発祥のカヤックは、その構造から海の旅に最適だと言う。

「船体の長さと細さが長距離の航海に向いています。一人で持ち運びができるほど軽く、どこにでも上陸できます。作りがシンプルなので故障も少なく修理も簡単ですから」

ボートやカヌーと比べてハードルが高く感じるカヤックだが、操船はいたってシンプル。
「基本的に、パドルを使って操船しますが、船尾に舵がついているカヤックの場合は両足を使ってコントロールも可能です」

さらにビギナーにとって安心なのは、カヤックの安全性だ。
「漕ぎ手の下半身がすっぽりとカヤックに収まるので、船体に水が入りにくい。だから海が荒れて波が高くなっても、安全性が高い。船体に空気室があるので浮沈構造になっています」↙︎
カヤックにはハッチのついた荷物室がある。密閉された空気室にもなり浮沈構造
舵が付いているのが一般的。足で操作することができ直進性が安定する
ライフジャケット、パドル、排水をするビルジポンプはマストギア。「ビギナーは安定したカヤックを選んだ方がいいですね。すぐひっくり返ったら、おもしろくないですから」
八幡さんは、カヤックに初めて乗って「これでどこでも行ける」と思ったと言う。
「きっかけをくれた人はいましたが、操船技術を教わったことはないですね。見よう見まねで自分でやって覚えました」

誰でも楽しめる懐の深さがカヤックの魅力だが、フィールドは大自然の海である。危険が隣合わせなのは言うまでもない。

「結局、海では自分の実力を推し量るわけじゃないですか。それ以上の世界に行ったら死んでしまう。最初のころは自分の能力を把握しきれないまま、なんとなく海に出てしまっていました。『こいつが行けたんだったら、普段おれのほうが速いし、大丈夫じゃないか』とか、慢心して」

初期のころ、八幡さんは海でシーカヤックを沈没させてしまい遭難したことがある。冬の時化で3メートル以上のうねりがある荒波の中を何時間もさまよった。カヤックの船底に穴が空いていたのが原因だったが、チェックを怠りさらにライフジャケットも身に着けていなかった「甘さ」の痛いシッペ返しだった。

では、初めてシーカヤックにチャレンジをしたい人はどうしたららいいだろうか?
「何を求めるかにもよりますが、初めは習うのがいいのかもしれないですね。特に海になじみがない方はできる人に教わる。それが一番いいですかね。先人の知恵を学んでから、自分のやりたいことを上乗せしていく」

とは言え、あまり安全ばかりに過敏になることに、八幡さんは首をかしげる。
「もちろん大前提として天気も海も読めるようにならなければならない。だけど座学で勉強ばかりしていると、つまらなくなってしまう。そもそも海は安全な場所でないですから。痛い目に遭いながら勉強していく。楽しいことをやった方が、結果的には安全に対して敏感になっていくと思います」

臆せず、慢心せず。しっかりと備えをして海へ。それが八幡流のシーカヤックの楽しみ方なのだ。

「シーカヤックは世界をつなげる道具です。海を歩くことができれば、自ずと世界へつながっていきますよ」
カヤックはカヌーと異なり両側にブレードが付いた「ダブルブレードパドル」を使用
「まずは楽しむことが大切です。身近な目標を作るといいでしょう」
「湘南はシーカヤックを楽しむのに最適な場所です。ぜひ海へ!」

ENJOY SEA KAYAK, ENJOY SHONAN!

●長浜海岸(横須賀市)
「湘南でおすすめのシーカヤックのポイントは葉山から南ですね。ナハマ(長浜海岸の地元名)は駐車場がありビーチがあって便利ですね。陸からアクセスできない海岸にも行けます」
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●油壷(三浦市)
「海岸線が家から離れているので、手つかずの景色が海から楽しめます。『ああ、自然ってこういうふうにできてるんだ』と改めて感動しますよ」
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PROFILE

八幡 暁

1974年東京都生れ。
2002年からオーストラリアから日本までの多島海域を舞台にした人力航海の旅「グレートシーマンプロジェクト」をスタート。
フィリピンー台湾海峡横断(バシー海峡)(07年)など世界初となる航海記録を複数持つ。
現在、石垣島で「手漕屋素潜店 ちゅらねしあ」を主宰する。