PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

PADDLER'S GALLERY #002 久保田 潤さん  

死ぬまで描き続ける−
柔和な印象とは裏腹に作品に傾ける信念は堅いものだった。

2017.12.05 TUE | UP

Photos:Nobuo Yano  Text:Emiko Kobayashi

「水浴図」キャンバス・油彩 2009年
「稲村ヶ崎」紙・水彩 2017年
「雲図」キャンバス・油彩 2011年
「ざくろ・切断したビン・ビン」 キャンバス・油彩 2014年
「りんご」紙・水彩 2016年
東京から湘南へ

材木座海岸から閑静な住宅街を少し歩くと、久保田潤さんのアトリエがある。
日向ぼっこをしている飼い猫が窓越しに出迎えてくれた。ただ恥ずかしがり屋なのか、あいさつをしようとすると影に隠れてしまった。
玄関脇にはサーフボードが無造作に並ぶ。
久保田さんは10月に絵本『なみにのる』(ブエノ!ブックス)を出版したばかり。湘南に優しく吹く風がよく似合う人だ。
『なみにのる』はブルーを基調とした淡い水彩画で描かれ、サーフィンの魅力が単調なリズムの言葉とともに表現されている。
「大人のための絵本なのかな」と久保田さんが言うように物語性は強くなく、彼が作った詩を絵と言葉で表し、まるでピアノの澄んだ上質な旋律が聞こえてくるようである。
小さい頃から漫画を描くことが好きだったという久保田さんは、東京藝術大学デザイン科を卒業後、大手広告代理店を経てCMディレクターとして活躍する。忙しい日々に追われつつも、「絵を描きたい」という思いは強くなり再び筆を取るようになった。デザインと絵画は一見似て非なる表現のように思われるが、当時の藝大では有元利夫(1946-1985)のようなデザイン科を出て絵画作品を制作するアーティストが一種のステータスになっていた。大学時代にサーフィンを始めた久保田さんは、いつか“サーフィン”を題材にして描けないかと考えていたという。
サーフィンがきっかけで2000年に鎌倉市へ移住、同時期に油彩を学び始め、2007年にはディレクター業をやめて本格的に画業に専念することとなった。↙︎
海のリズム、人間の暮らし

久保田さんの作品はサーフィン、海岸風景、空など“水”に関連する作品が多いが、マチエルは油彩がほとんどだ。海とも空とも思えるその青は白藍のように薄ぼやけ、水蒸気を感じさせる。水を題材にしているのになぜ油彩なのかと疑問をぶつけると、「描いている途中の色と、乾いた時の色が変わらないので理想の色を描きやすい」という答えだった。水彩絵の具の偶然性を楽しむことも大事だが、頭の中のクリエイティブをそのまま筆を通して表現できるのだろう。
また久保田さんには波待ちしている時、海面は巨大な平面に見えるそうだ。都会にはあれだけ存在感のある巨大な平面は見つけられない。それが、彼が海の側に移住した理由の一つなのだ。
「まっ平らな広さを体感するのは自分にとって大事なのかな」
眼下に広がる水平線や肌で感じる波のリズムは、人間の根幹を揺さぶる。久保田さんの作品のインスパイアはまさにそこにあるのだ。
自然に対し畏敬の念を持ちながら、時に力を抜き、人間の儚さに寄り添うその作品は、私達の生活を豊かにしてくれるのではないか。
彼の作品に対峙した時、何を思うか。
“少し、力を抜いて生きてもいいんじゃないか”
そんな哲学が垣間見える。

やわらかくも清澄な光に包まれるアトリエは、久保田さんの人柄のよう。「毎 日、絵筆を手にするようにしています」。愛猫もお気に入りのモチーフだ。
来年、平塚と鎌倉で個展を控えているという久保田さん。「ぜひ作品を見に来て下さい」

PROFILE

久保田 潤

東京生まれ。鎌倉市在住。
東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、広告代理店に勤務。CMプランナー、ディレクターとして数々のCMを手がける。2007年画業に専念し2009年より個展多数。2017年10月絵本『なみにのる』(Bueno!Books)を出版。