PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

PADDLER'S GALLERY #004 原 良介さん  

様々なものが急速にデジタル化する昨今、人は自然とどのように向き合って共存していけば良いのか。
そんな自然との“距離感”を作品で可視化する。

2018.02.07 WED | UP

Photos:Nobuo Yano  Text:Emiko Kobayashi

展覧会「天然」会場風景2014
展覧会「色相の上」会場風景2017
《on the bank》2008
《on the bank》2008
《three moons》2007
《by a lake》2007
自然との距離

鎌倉市梶原のアトリエを尋ねると、そこには1点の大作が飾られていた。「これで完成なんです」その作品はキャンパス地や下書きの鉛筆の線をそのままを残した構成のためか、よく制作途中と思われてしまうそうだ。

小さい頃から絵を描くことが好きだった原さんは、大学では油画科を専攻した。しかし、影響を受けたアーティストは意外にも日本画家が多い。近世では円山応挙、俵屋宗達、近代では小野竹喬や東山魁夷などの名前も挙げた。原さんは作品の表現に悩んでいた時、彼らが描く自然観から学ぶところが多かったという。近代日本画の巨匠たちの何層にも重ねられた日本画独特の岩絵具のマテリアルに対し、原さんの作品は筆跡を残すように、支持体の素材がそのまま活かされている。その描き方のせいか、油絵具を使っているのに、日本人らしさのような自然観が伝わってくる。描かれた特定できない“どこかの森の風景”は、俯瞰的に描かれている木々や空に、触れられるか触れられないかの際でそっと見つめているような感覚におちいる。それは日本人が長い歴史の中で常々考えてきた自然への畏敬の念の距離感なのかもしれない。急速に進む現代社会のデジタル化に対し、原さんにとって自然を描くことは自身と自然との距離感の確認作業のように思える。

無意識の基準値

原さんの作品は自然の風景が多いが、海は描かれることはない。しかし平塚市で育ったこともあり、やはり海までの距離はアイデンティになっていることが自身と自然との距離感を生み出しているのかもしれないという。一時、湘南から離れて住み、どこに行っても住宅地と林で途方にくれた経験があるそうだ。湘南で育っていると、南に行けば海があることを無意識に感じていて、地理的にも精神的にも海が基準値とも。もしかしたら山があり海がある湘南という土地の環境は、我々に自然との距離を無意識的に感じさせてくれる場所なのかもしれない。

円覚寺での展覧会

原さんは昨年11月、北鎌倉の円覚寺龍隠庵にて個展「色相の上」を開いた。龍隠庵は、禅思想を国際的に広めた鈴木大拙が書生時代に滞在した。そのような歴史的背景のある場所で展覧会を開催できたことは、一つのターニングポイントとなったようだ。本展の作品は展示会場に合わせてまず色を決め、作品を構成するという新たな試みに挑戦した。

「今後も自然と人というモチーフは描き続けていくが、あえて何か制約がある中で展覧会を構成し、新しい発見をしたい。」と作品の進化を厭わない。特定の宗教思想に傾倒しているわけではないが、日本の宗教思想にあるような精神的な自然観を描き続けたいという原さんの作品からは、私たちの中から決して消えることのない日本の澄んだ空気のかおりがする。不思議なことに制作途中のように見えていたアトリエに飾られたその大作は、話を聞き時間が経つにつれて、奥行きが生まれ、完成した作品へと表情を変えていた。
整頓されたアトリエには「色相の上」に出品した《森のそばでby a forest》2017が飾ってある
制作途中と思われてしまうという作品。時間が経つと奥行きが見え、表情を変える
山登りが趣味という原さん、自然と意図的に触れ合うことで目に写ったものを栄養のように吸収し、咀嚼して表現しているのかもと語る

PROFILE

原 良介

1975年神奈川県生まれ。
2002年多摩美術大学大学院美術研究科修了。近年開催した主な個展に「projectN36原良介」東京オペラシティアートギャラリー2009年「原良介−絵画への小径−」茅ヶ崎市美術館2012年「天然」ゲルオルタナ2014年「色相の上」円覚寺龍隠庵2017年他。2013−17年多摩美術大学美術学部絵画学科非常勤講師。