PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

FOOD BATON ピッツェリア・イタリアーナ・マルツォ 松山清和さんのローマピザ

海や山、自然に恵まれた湘南には、季節折々の旬な 食材が集まる。
その食の豊かさにひかれて、この地に暮らす男達は多い。
食のバトンがつなぐ、湘南のテーブルストーリーに耳を傾けてみよう。
今回、アルカレートの北村健さんから、フードバトンを引き継ぐのは、
「ピッツェリア・イタリアーナ・マルツォ」の松山清和さんだ。

「#004アルカレート 北村健さんのイタリア料理」はこちらから

Photos : Pero  Text : Paddler

イタリアでの出会いが、人生の岐路に

今や日本でも、本場イタリアのように専用の薪窯でピザを焼くピッツェリアが、すっかりおなじみになった。その先駆けは、90年代半ば、東京に相次いでオープンしたナポリピザのピッツェリアだ。その店の数々が、後のナポリピザブームの火付け役となり、現在ではすっかり有名となり人気店として定着している。だが、そのブームの前に、本格的なピッツェリアが、ここ湘南・小田原に生まれていたのだ。ピザ好きの間では知る人ぞ知る名店「ピッツェリア・イタリアーナ・マルツォ」だ。

「89年にオープンしたのですが、湘南はもちろん横浜にも薪釜がある店はありませんでした。東京でも数えるほどだったのでは?」と、語るのはオーナーの松山清和さんだ。

当時、松山さんは、一線のカメラマンとして活躍。雑誌やコマーシャルの撮影のために、世界を駆け回っていた。そして、イタリアに訪れた際に、その後の人生を変える運命の出会いを果たす。イタリアンピザとの出会いだ。まだ日本ではピザといえば、生地の厚いアメリカンピザが一般的だった。

「ある店で出された本場のピザに魅了されました。撮影で訪れたのですが、あまりにも気に入ってしまい料理の手伝いをしたくなって……。店の親父も僕の熱意がわかってくれて、いいよ、と。本当はその場所には4日の滞在だったのですが、1週間、10日と延びて(笑)」

帰国後、ピッツェリアを生まれ育った小田原にオープンすることを決心。イタリア中を食べ歩き、今の“味”にたどり着いた。↙︎
もともとはカメラマンだったオーナーシェフの松山清和さん。イタリアでの運命の出会いが、この道へ
釜からテーブルへ、焼き立ての熱々ピザが。ローマピザは生地が薄いので、食材の滋味がダイレクトに伝わってくる
ローマピザの美味しさを伝えるために

丸めた生地タネを指の上でクルクルと回しながら、手際よく伸ばしてピザ生地に。具材を乗せて、素早く薪釜へ。香ばしい匂いが漂ってきたと思ったら、ピザを皿に。わずか数分で美味しそうなピザが目の前に。思わずゴクリとノドが鳴る。いただきます、と口に放り込もうとすると、あれ!? このピザどこかが違う。

「うちのピザは、ローマピザなんです。日本で人気があるナポリピザよりも、生地が薄くてクリスピー。ピザを焼くというよりも、窯の中に入れて、ソースと具を調理するという感じですね」

なるほど、見た目は大きく圧倒されるが生地がサクサクなので、ペロリとお腹に入ってしまう。食材の味がダイレクトに舌に伝わってくるので、ワインとの相性も抜群だ。ピザだけでお腹いっぱいというナポリピザと異なり、他の料理とともにゆっくりお酒を楽しみたいという方にぴったりだ。実際、「マルツォ」はピッツェリアをうたいながらも、ワインや他のメニューも充実。店内のセラーには、イタリアワインから、ブルゴーニュ、プロバンスと幅広くそろう。ワインとともに、小田原漁港の朝どれの魚介や新鮮な地野菜を使った前菜の盛り合わせは、ぜひオーダーしたいところ。

「今、はローマピザの店は神奈川にはありません。東京にも2、3店だとか。以前、ミシュランで星をいただいのですが、ローマピザでは初では? 今、ナポリが流行っているので、生き残りですよ(笑)」
 
「ピザは温度が命」と、イタリアから納得がいく釜を取り寄せた。火力にこだわるために、自ら足柄の山に入って眼鏡にかなう薪を手に入れる。自分が求める味には決して妥協は許さない。

「たかがピザ、されどピザなんです」

松山さんが薪釜と向き合う日々は、これからも続いていく。
地魚をいかした「前菜のお任せ盛り合わせ」も外せない。一人前1000円とリーズナブル
広々とした店内は洗練された雰囲気。内装は店のスタッフが手がけた
小田原イタリアン協会の会長でもある松山さん。「ナポリピザだけでなくローマピザも味わってもらいたいですね」
WHERE THE NEXT?
松山さんオススメの一軒は?

HERLEQUN BIS(湯河原町)
エルルカン ビス


「竹林に囲まれた隠れ家的な本格フレンチです。伊東シェフの独創的な味を求めて、プライベートでも、よくお邪魔したます」(松山)
ピッツェリア・イタリアーナ・マルツォ
小田原市栄町1-11-11 [MAP]
TEL. 0465-24-2241
OPEN. 11:30~14:30 、18:00~20:30
CLOSE. 木