PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

9 PIECES SENSE #002 阿部臣吾さん
内装デザイナー

人生で影響を受けた音楽、映画、本。9つの感性から、その人のイマを知る。
第2回セレクターは、内装デザイナーの阿部臣吾さん。

2017.11.29 WED | UP

Illustrator:Kanta Yokoyama  Text:Tomohiro Okusa

シェルター

ロイド・カーン/ワールドフォトプレス

著者みずからが巡った世界中の伝統的な家を紹介している。ヒッピー的な思想とも共鳴し、多くの建築家に影響を与えた1冊。

NOMADIC FURNITURE

JAMES HENNESSEY AND VICTOR PAPANEK

コンパクト、スタッキング、分解可など現在へと至る家具が掲載。「当時のデザインが今でもそのまま違和感なく使えます」

就職しないで生きるには

レイモンド・マンゴー/晶文社

会社勤めをせずに、働き、生きていこうという指南書。今読めば、小商いやスモールビジネスの解説本のように読める。

The Fhont shop


池尻大橋にある同名ショップの10周年フリーマガジン。店主・本間良二さんは、阿部さんと公私共に付き合いがあるとか。

アウトドア・ものローグ

芦澤一洋/ヤマケイ文庫

アウトドア道具を紹介している本。個人的愛情たっぷりな語り口は、単なるモノ本とは一線を画している。

Relaxing Mix For Sleeping

DJ mix by K.E.I.

ヘアサロン経営者でありながら、DJやバンド活動も行っているK.E.I.による自然音、民族、インダストリアルまで行き着くDJミックス。

スティールパンの惑星


ドキュメンタリー映画『スティールパンの惑星』のサントラ盤。スティールパンの音色に彩られ、トリニダード・トバゴの圧倒的熱気が伝わってくる。

パリ、テキサス

ヴィム・ヴェンダース

「若い頃から大好きで、主人公トラヴィスのよれたスーツ、適当なキャップのかぶり方をよく覚えている」という名作ロードムービー。

ファンタスティックMr.FOX

ウェス・アンダーソン

ストップモーション映画。サラリーマンができない主人公のように、「父さんはこういう感じでいきたい」と子どもに見せているとか。

アパレルショップやカフェ・レストラン、オフィスなどの内装を手がている「SMILIES」代表の阿部臣吾さん。毎年ゴールデンウィークに開催されている「逗子海岸映画祭」でも、建屋のデザインや施工などでその手腕を振るっている。阿部さんがおもに使用する材料は、木を中心とした自然素材だ。かつて働いていた木工系の会社では、直接、山に赴き、立ち木の状態で購入、伐り倒しに立ち会うなど、木材を取り巻く文化を勉強してきた。

「当時から、木や自然素材を使っていきたいと思っていました。あと、ハンドメイドでやりたかったということもあり、自分の手で加工できるものを選択してきた結果でもありますね」

2001年に独立してからも、思いは変わらない。その下地となってくれている本がある。『シェルター』と『NOMADIC FURNITURE』だ。

『シェルター』は言わずと知れた、ロイド・カーンの名著。“家という概念”、“自分を守る最小単位”など、概念的な思想に影響を受けている人も多いが、阿部さんのような職種にとっては実用書としても使える。

「この夏は、逗子で一般社団法人『そっか』が運営する「海のじどうかん」という木造建築の改修をお手伝いをしていました。来年は小屋づくりをする予定です。そんなときに参考として『シェルター』を開きますね。僕にとってはバイブルで、ことあるごとにページを捲っています」

『NOMADIC FURNITURE』も近いコンセプトを持っている。現在のいわゆる「ノマド」の概念と共鳴するもので、バラして持ち運べたり、小さくなったりする家具が載っている。掲載されている「Kラインチェア」をオマージュして復元してみたりもした。阿部さんが手がけた雑貨ショップ「EDIT LIFE」(現在はオンラインショップのみ)でも、天板が取れたり、バラせたり、実用にもしっかり生かしているようだ。
「自分も旅が好きだし、身軽に動きたいという人たちは、今も昔も多いようです」

阿部さんのこうした世界をふんだんに生かしてできる仕事は、価値観の近いアウトドアブランドとの仕事が多いようだ。

「4年前、『ノローナ』というアウトドアブランドが立ち上がったときの展示会で、原宿にある『バツアートギャラリー』に山小屋のような什器を設置しました。展示会終了後も、それを保管しておいてもらって、次に『ビームス』でポップアップストアを開催するときに再利用しました。色を塗り替え、レイアウトは直したけど、同じ素材です。さらには『スティーブンアラン』のショップで行われたポップアップショップでも、白く塗って、床も足して使い回しました」

アパレルなどで毎年、何回も繰り返される展示会。一度作り込んでは、壊し廃棄する。この無駄なサイクルに疑問を持っていた。
「イベントなどではどうしても廃棄物が出ます。なるべくそれを出ないようにしましょう、という提案はいつもしていますね。手を加えながら、姿かたちを変えていく展示会ならば、積極的にやっていきたいです」

『シェルター』や『NOMADIC FURNITURE』という本から得たものは、実益を伴いながら、無駄を無くすという意思を備えたものとして阿部さんに染みついているようだ。

ノローナの例は、同じブランド内での使い回し。コンセプトも共有しているので使いやすいだろう。もっと遠くへ、予想もしない場所まで展開していったのがもうひとつの例。

「アラスカシーフード協会の展示会で使った木材は、原宿にあるアパレルショップのクリスマスキャンペーンに流用して、最終的には友だちの編集者が庭に建てた小屋の材料として着地しました」

木材が阿部さんに導かれ、あちこち旅をしている。人も人に導かれて旅をする。阿部さんも人に導かれてきたという。『シェルター』は10年来のオフィスシェアメイトであるグラフィックデザイナーの峯崎ノリテルさんに、20代前半に誕生日プレゼントとしてもらったもの。自身が内装を手がけた「レイニーデイ・ブックストア&カフェ」の当時の店長に誕生日プレゼントでもらったのは『就職しないで生きるには』。独立したばかりの頃だったということで、“メッセージ付きパス”なのだろう。当時はまだ仕事が安定しておらず、心のどこかに「就職したほうがいいのかな」という気持ちが残っていた。そんなときにこの本を読み、独立への機運を高めてくれた1冊だ。

人からオススメされたものはもちろん、友だちがつくったものに、よりダイレクトな影響を受けるのは至極まっとうかもしれない。

『The Fhont shop』は、友人であるスタイリスト、本間良二さんのショップ「The Fhont shop」の10周年記念フリーマガジン。ジンのようなつくりで、「物に対する愛情が伝わってくる」という。『Relaxing Mix For Sleeping』は、美容師でバンドやDJとしても活躍している友人のK.E.I.さんによるミックスCD。「こんなタイトルだけど、いきなりノイズなんです…。ほかにも民族音楽とローファイロックなどがミックスされていて、ドライブ中や仕事中によく聴いています」

「こうした本やCDを教えてもらい、それが自分の素養になっていきます。人ときちんと付き合っていると、仕事にも活きてきます。そういう仕事は、仕事でも趣味・遊びでもなくて、楽しみながら取り組める、大切なライフワークになっていくのです」

PROFILE

阿部臣吾

1977年生まれ。逗子在住。桑沢デザイン研究所インテリアデザイン科卒業。デザイン会社、内装施工会社を経て、2001年に独立。店舗内装・リノベーションなどを中心に、現場作業で得た感覚を大切にした空間造りを模索中。