PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

9 PIECES SENSE #003 武田昌也さん/グラフィックデザイナー

人生で影響を受けた音楽、映画、本。9つの感性から、その人のイマを知る。

2018.01.11 THU | UP

Illustrator:Kanta Yokoyama  Text:Tomohiro Okusa

『MIX TAPE』

ZOO YORK

ニューヨークのスケートブランド「ZOO YORK」の1stビデオ。「ハロルド・ハンターがとにかく好き。スケートとヒップホップがミックスされた名作です」

『2kilo of KesselsKramer』

Kessels Kramer

オランダをイメージさせるレンガ、そして2kgという重量など、エリック・ケッセルがコンセプトメイキングに長けていることが表現されている1冊。

『TIBOR』

Tibor Kalman

ベネトンが発行している雑誌『COLORS』の初代アートディレクターの作品集。「社会的な事象にも、ビジュアルの力で正面から切り込んでいます」

『THE SMALL STAKES:MUSIC POSTERS』

JASON MUNN

ジェイソン・モンが手がけたシルクスクリーンポスターをまとめた作品集。ベック、ウィルコ、ピクシーズなど音楽関連デザインが150以上!

『AMSTERDAM!』

ED VAN DER ELSKEN

第二次世界大戦後に活躍した写真家の作品集。「昨年2月、アムステルダムで彼の展覧会で購入。その後から街への興味が高まりました」

『千利休 無言の前衛』

赤瀬川原平/岩波新書

映画『利休』のシナリオ執筆のために調べたリサーチから、作家/芸術家である赤瀬川原平が日本文化の原点をあぶりだしている。

『The Selby is in your place』

Todd Selby

クリエイターやアーティストを取材していたブログの書籍化。写真やイラスト、直筆コメントなど、程よく力の抜けた自然体を引き出している。

『SHUKYU Magazine』

SHUKYU

通常のサッカー雑誌とは異なるスタンスで記事を紡いでいるフットボールカルチャーマガジン。背景や環境などの文化を伝えてくれる。

『インタビュー』

木村俊介/ミシマ社

20年にわたり、1000人以上に会ってきた著者によるインタビュー論。「文字数やテーマ性という定型を超えた一期一会の大切さに共感しました」

グラフィックデザイナーとして、デザイン事務所や編集プロダクションでの勤務を経て、6年前に独立した武田昌也さん。独立して最初の3年間は、オランダのアムステルダムに移住して働いていた。そもそも「ダッチデザイン」に強く惹かれたのは、デザイナーのエリック・ケッセルの作品に出合ったことがきっかけだ。特に彼がクリエイティブディレクターを努めるクリエイティブエージェンシー「Kessels Kramer」の作品集『2kilo of KesselsKramer』には感銘したという。

「この作品集、重さを量ると本当に2kg。そのページまでの重さがノンブル代わりだし、コンセプトを貫いています。ユーモアたっぷり、変化球なアイデアが多いけど、デザインとしてまとまっている。この本のおかげで瞬く間にダッチデザインに目覚めました。去年、彼が日本に来てレクチャーをしていたので会いに行きました。『あなたのおかげでオランダにまで行くことになった』と伝えたら、名刺をくれました。チン●が100個くらいコラージュになっているデザインで(笑)」

オランダでは知り合いからの紹介もあって、様々なデザイン仕事をこなしていく毎日。それはそれで充実していたが、受注仕事だけではなく、自分でも何かを発信・表現したいという思いがもたげてきた。そんなときは、近所のシルクスクリーンプリントのスタジオで、自分でポスターを作ったりしていた。武田さんは学生の頃、バンド活動をしていて手描きでフライヤーを制作していた。そのデザインが周囲で評判となり、職業としての「デザイナー」を意識し始めたという。彼のデザイン原体験だ。だからアムステルダムでのポスターづくりにも夢中になった。

「ジェイソン・モンの『THE SMALL STAKES:Music Posters』を思い出していましたね。彼は音楽ポスターをデザインし、シルクスクリーンで刷っています。初期はまだ迷いがあるかなと思います。シルクだと色数も絞られてくるという理由があるかもしれませんが、最近はどんどん研ぎ澄まされてミニマルに、かつコンセプチュアルになっていきます」

武田さんも、近い将来、シルクスクリーンやレタープレス(活版印刷)などのスタジオを開いてみたいと語る。ポスターならひとりでつくれるし、発表する場もある。住まいのある神奈川県・葉山町で、デザイン発信の場として機能し始めたらおもしろい。

アムステルダムで仕事をしていて、一番驚いた違いは仕事の進め方だという。日本では、完成に近いデザインを提案して是非を問うが、アムステルダムでは、始まりからすべてのプロセスを共有していく。コンセプトを徹底的に詰めて、それに基づいたベストの解を探していく。それが設定された時点で、アウトプットには間違いがない。
「『何故ひとりでやってしまうんだ』とか『途中で相談してほしかった』と言われていました。色や書体という具体的なことも指摘されましたね。逆に字詰め(文字間の調整)などしていると、『そこまでやるのか』と感心される。僕にとっては当たり前の作業なのに、彼らにとっては日本人特有の細かい“詰め”みたいです」

日本と海外のデザインに対する向き合い方の違い。胸に引っ掛かっていたこうした疑問をスッと流してくれたのが『千利休 無言の前衛』だった。

「日本で最初のデザイナーは千利休である、という内容です。彼が導き出したわびさびやミニマルの概念が、日本人のデザイン感の根底にある。茶室なんかも最終的には必要最低限の二畳になっていくし、そぎ落としていく美学。日本と外国とのデザインの違いをうまく解説してくれています」

“雑誌や本づくりへ愛情を持って接したい”。言葉にしてしまうと当たり前のことだが、最近は、あらためて意識しているという武田さん。今までグラフィック/エディトリアルデザイナーとして本づくりに接してきたが、そこから拡大して出版や編集的なスタンスへ進んでみたいという意欲がある。その背中を押してくれるのが『The Selby is in your place』『SHUKYU Magazine』の2冊。ともに、編集者のたっぷりの愛が成分として滲み出ている。

「『The Selby is in your place』は、お部屋紹介本。写真家でイラストレイターのトッド・セルビーがひとりですべて制作しています。でも、できないことはやらない。逆に言えばできることだけでつくる。イラストを手描きしたり、取材相手に直筆でアンケートに答えてもらったり。ローファイな手作業を感じさせる大味なつくりですが、アイデアとつくりたいという思いが溢れています。『SHUKYU Magazine』は、今日本で一番おもしろいと思っている雑誌です。サッカーの裏側や周辺文化を丁寧に紡いでいます。これも愛に溢れている。“自戒を込めて”、本来、雑誌はこうあるべきなのではないでしょうか」

エディトリアルデザイナーは当然、意匠を整える役割だが、俯瞰した視点や編集的マインドも必要とされる。だから、内容にコミットしたくなるのは当然だ。
「インタビューページをデザインしているときは、当然、そのインタビューを読んでつくります」という武田さん。「ちょうど『インタビュー』という本を読んでいるときに、この『9pieces sense』の依頼がきました。おもしろいタイミングだなと思って」

これからデザイナー視点で、インタビューや編集に携わることもあるかもしれない。そんな準備も着々。きっとつくり手の愛情たっぷりになるだろう。

PROFILE

武田昌也

1979年生まれ。葉山在住。桑沢デザイン研究所ヴィジュアルデザイン科卒業。在学中からグラフィックデザイン会社でアルバイトし、そのまま就職。2年後、大手グラフィックデザイン会社に転職して、雑誌などのエディトリアルデザイナーとして多忙な日々を過ごす。その後、編集プロダクションの立ち上げにアートディレクターとして参加。独立後、オランダで3年過ごしたあと、約2年前に葉山に移住。現在もエディトリアルを中心に、フリーランスデザイナーとして活動。