PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

9 PIECES SENSE #005 塙 正樹さん
The Landscapers クリエイティブディレクター

人生で影響を受けた音楽、映画、本。9つの感性から、その人のイマを知る。
第5回セレクターは、The Landscapers クリエイティブディレクターの塙 正樹さん。

2018.03.21 WED | UP

Illustrator:Kanta Yokoyama  Text:Tomohiro Okusa

『FRANK LLOYD WRIGHT』

FRANK LLOYD WRIGHT

近代建築の3大巨匠のひとりに数えられるアメリカの建築家、故フランク・ロイド・ライトの作品集。「落水荘」や「グッゲンハイム美術館」、日本の旧「帝国ホテル」も彼の作品である。

『2-Delight』

Enlightment

ヒロ杉山率いるクリエイティブユニット「エンライトメント」初の作品集。写真なのか、イラストなのか。その中間のような、不思議な作風のポートレートが有名。

『PROCESS;』

A TOMATO PROJECT

ロンドンを拠点とするクリエイティブユニット「トマト」の作品集。テクノユニット「アンダーワールド」のカール・ハイドもメンバーに名を連ねている。

『An Exhibition』

GILBERT & GEORGE

フォトモンタージュを多用しているイギリス拠点の二人組美術家の作品集。社会的メッセージや風刺が込められた作品が多いが、自分たちがたびたび登場するなど、ポップな作風である。

『Visions of Constructivism』

ALEKSADR RODCHENKO & VARVARA STEPANOVA

19世紀前半のロシアにおける芸術運動「ロシアン・アバンギャルド」の中核にいた故A・ロトチェンコとパートナーの故V・ステパーノワ。彼らが押し進めた「構成主義」を特集した展覧会の図録。

『SLAP MAGAZINE vol.1』

スケートボード界で元祖といえるアメリカの雑誌『スラッシャー』の兄弟誌『スラップマガジン』。1992年創刊。誌面デザインが良く、人気が高かった。

『Let’s Get Lost Starring Chet Baker』

BRUCE WEBER

ファッションフォトグラファー、ブルース・ウェーバーが監督したトランペッター、チェット・ベイカーの自伝的短編フィルム。そこから、スチール写真を編集した作品。

『THE ANDY BOOK』

BRUCE WEBER

元全米ボクシングチャンピオンのボクサー、アンディ・ミンスカーをモデルにした作品集。彼のドキュメンタリーは、ブルース初のフィルム作品でもある。

『PORTRAITS アベドン写真展—時代の肖像』

RICHARD AVEDON

ファッション、アート界における気鋭写真家、故リチャード・アヴェドンが個展を開催したときの図録。開催、発行された1977年は、塙さんの生まれ年でもある。

鎌倉の市街地から鎌倉山をクネクネと車で10分ほど登ると「アラウンド」というショップがある。「ザ・ランドスケーパーズ」というプランツを中心にしたプロダクトを展開するブランドの、フラッグシップショップでもある。ともにクリエイティブディレクターを務めるのは塙 正樹さん。店舗から徒歩数分の場所に、古い家屋を購入し、リノベーションした自宅もあり、庭に作業場として利用している小屋も建てた。外壁には大谷石を貼った。これは世界的な建築家であるフランク・ロイド・ライトが魅了された素材から発想を得たものだ。

「幼稚園から高校まで、『自由学園』という一貫校に通っていました。僕が通っていた校舎は、『フランク・ロイド・ライト』と日本の弟子である遠藤新が建てたもの。彼が建てた校舎だということは、幼少の頃から教えられていましたね。壁や柱など、すごく印象的でした」

自由学園の教育や学舎が、クリエイティブ業界で働くという道筋をつけてくれたのかもしれない。実際、現在の仕事に就くまで、広告代理店の企画制作、インテリア、アパレルなどを経験してきた。そのきっかけとなったのは、専門学校で写真とグラフィックデザインの勉強をしていたことだ。

「当時、衝撃を受けたグラフィックデザインは、『エンライトメント』の作品です。平面なのに、グラフィックの技術を使って陰影を出す手法が好きです」

同じくアナログからデジタルへの過渡期といえる90年代に登場した「トマト」や、70〜80年代に活躍したイギリスの美術ユニット「ギルバート&ジョージ」など、写真とグラフィックが融合している作風の作家に、自然と興味を持っていった。
なかでもA・ロトチェンコの『Visions of Constructivism』は、「ザ・ランドスケーパーズ」の新しいアイデアソースとして、最近、よく見返しているという。

「ロトチェンコはロシアン・アバンギャルドという文脈で語られるアーティスト。コラージュを多用して写真とグラフィックで表現しています。ビシッとしたグラフィックよりも、手描き要素を加えた作品が好きですね」

手描きによる“ラフさ”を求めてしまうのは、塙さんが中高生のときにスケートボードに夢中になったからかもしれない。90年代のスケートシーンは、自由な精神に満ちあふれていた。

「特にアメリカ西海岸の『プランB』というカンパニーがお気に入りでした。ライディングはもちろん、スケートのカルチャーや精神に強く惹かれたんです。当時はインターネットもないから、情報源は雑誌。そのなかのひとつ『スラップマガジン』は今でこそきちんと製本されていますが、創刊号は手づくり雑誌であるZINEのようなつくりでしたね。そこから数号は、ロゴや判型が毎号変わったり。ちゃんと製本された雑誌だったら、手元に残しておかなかったかもしれません」
塙さんが鎌倉に移り住んで4年。コミュニティがつくった縁もまた、知的好奇心を後押ししてくれる。逗子に住む知人のアートディレクター向 圭一郎さんが、自宅の蔵書を放出する機会があり、塙さんが求めていた写真集2冊を手に入れることが出来た。写真家、ブルース・ウェーバーの、市場でも価値の高い『Let’s Get Lost Starring Chet Baker』と『THE ANDY BOOK』である。

「ほしいと思っていながらも、値段が高くて購入はしていませんでした。僕はコレクターではないので、何十万円も出して買おうとは思いません。しかし、中味は当然、観てみたい。すごい運命を感じましたね。『ブルース・ウェーバー』は、広告写真よりもドキュメンタリー作品が好き。また表紙のグラフィックやアートワークも気になるものが多いんです。彼がディレクションしている『ALL AMERICAN』というシリーズがありますが、製本キットでつくったような装幀がいい。しかしこれも、最近はきちんとした装幀の本になってしまったのが残念です」

学生の頃に写真の基礎を学んでからは、自身でも写真を撮っている。「趣味程度です」と謙遜するが、店舗やブランドで使われる写真のほとんどは、塙さんが撮影したもの。自身が海外で撮影した植物の写真を額装したインテリアもある。その依頼も増えたとか。

「『ザ・ランドスケーパーズ』は園芸業だけではなく、植物を機軸にした上で、いろいろな可能性を開拓していきたい。写真もその要素のひとつです」

さまざまなクリエイティブ系の職を経験しながら、辿り着いた場所。
「ひとりで没頭してものづくりしているのがすごく楽しいし、型にハマらないものづくりができます」と、独立した現在を謳歌している。ボタニカル/グリーンに関する専門知識は、妻の麻衣子さんが主となって得ている。塙さんはあえてそれを詰め込み過ぎないように、俯瞰(ふかん)したポジションを確保したいという。

「グリーンをこうしなければいけないという先入観は、ぼくたちがポイントにしている新しいものづくりやアプローチというものを邪魔してしまうこともあります」

今回選んでもらった9作品に、ひとつもボタニカル系の書籍が入っていないことが、塙さんのスタンスを象徴している。若い頃から自分の中に蓄積してきたセンスが、今、花開こうとしている。

PROFILE

塙 正樹

自由学園を卒業後、専門学校でグラフィックデザインと写真を学び、広告代理店でグラフィックを中心に企画製作の仕事に従事。その後、インテリア会社「IDEE」で物流、アパレルブランド「BEDWIN & THE HEARTBREAKERS」で営業、総合商社でクリエイティブディレクターを担当。各ジャンルで、ものづくりやクリエイティブをさまざまな角度から勉強しながら、2014年、造園の仕事をしていた奥様の麻衣子さんとともに、ボタニカルブランド「The Landscapers」を立ち上げる。鎌倉山に旗艦店「AROUND」もオープン。