PADDLER’S EYE 湘南の今を独自取材した特集と連載

RIDE ON Masaomi Yamanaka 1959 International Harvester B110 Track

「クルマは縁ものだ」
アリゾナからインターナショナルハーベスターが我が家にやってきた。

Photos : Tomohiro Momo  Text : Riku Emoto

アトリエで作業する山中さん。新品にヴィンテージの風合いを出すエイジングペイントを得意とする
太平洋を越えて、平塚に

平塚の工業地帯の一角に倉庫を改装した“大人の秘密基地”がある。この場所の主人は建築業を中心としたクリエイティブ集団「Kダヴィンチ」のメンバー・山中連臣さん。ここは彼らのアトリエであり、仲間たちと趣味の世界を作り上げる理想の空間。その真ん中にドンと鎮座するのは、いかにも『アメ車』な雰囲気を醸し出す大きなピックアップトラックだ。

アメリカのピックアップトラックというと、フォードやシボレーがメジャーで日本でも目にする機会も多い。しかし、数あるアメリカントラックの中でも山中さんが所有しているのは、1959年型インターナショナルハーベスター社製B110トラック。日本国内に3、4台しか存在しなく、ほとんど目にすることのない幻のクルマと言っていいだろう。しかし、意外な場所で多くの人に目撃されているという。

「ディズニーのアニメーションムービー『カーズ』にメーターという出っ歯のクレーン車が出てくるんです。そのメーターと僕の愛車は同じインターナショナルハーベスター社製の兄弟車なんですよ。このクルマのフロントマスクに気付いた子供達が『あっ、メーターだ!』って喜ぶし、一般道でも道を譲られたり、手を振られたりすることもあり、お互いにかなり和んだ気分になりますね」

アンティーク好きだった母親の影響もあって、子供のころから古いものが好きだったという山中さん。何かいいクルマがないかと探し始めた当初は「ただ漠然と普通とは違う変わったアメリカの古いクルマがほしいという程度」であったという。

そんな時に『ヤフオク!』に出品されていた現在の愛車を目にする。トラクターなど農耕車を生産するメーカーだったインターナショナルハーベスター社が製造したクルマだけあって、ブレーキシステムや様々な機構が一般車に比べてかなりユニーク。V8、5000ccのエンジンもメーカーオリジナルという希少車だった。「最初は入札する勇気もなくって、未入札のまま期限切れを迎えちゃったんです」が、しばらくすると再出品されたのだ。

「目をつぶる度に、クルマの姿が目に浮かぶんですよ」とすっかり虜になった山中さんは、直接問い合わせてみることに。すると出品者は同じ平塚の方だったのだ。そんな縁もあって「この子(愛車)はアリゾナからアメリカ大陸と太平洋を旅して最終的に我が家に落ち着いたんです。オークションで見た時に、この子に『僕、そこに行きたい』って言われたんでしょうね(笑)。我が家に伝わるアンティークの家具のように、僕の子供達が引き継げるようにして行きたいですね」
様々な運命が繋がって、インターナショナルハーベスターは山中さんの家に迎え入れられたのだ。↙︎
アトリエの一角に設えたインターナショナル ハーベスターをイメージした造作物
インターナショナルのエンブレムとバンパーの錆や荷台の凹みがクルマの歴史を物語る
クルマとの会話を楽しむ

手に入れた当時はブレーキも左のフロントしか利かず、乗りこなすのにかなり手を焼いたという。
「基本的には自分でやれるところはなるべく自分でこなすようにはしていますが、専門的な所はプロに任せていますね。ラジエターはアメリカ時代のオーナーがアルミ製の新品に換えてあったので、水回りに関しては問題はありませんでした。先ず手を付けたのは、走って止まれるクルマにするためにフロントのドラムブレーキをディスクに換えたことと、エアコンの装着でしたね」

建築業に従事する山中さんは仕事柄、腕に覚えはあった。むき出しの配線はエアコン用の銅パイプを目隠しに使ったり、「スペースシャトルが大気圏に突入する時の摩擦熱を緩和する特殊塗料」を仕事のコネを使って手に入れて、断熱や防音のために車内の天井や壁、床に塗ったと言う。さらに必要なパーツがあれば、イーベイで落札したり、アメリカ人の義理の兄に頼んで送ってもらうなど理想の形に近づけている。中でもお気に入りが、シフトノブだ。生産された年と同じ1959年製のドアノブで、自分で加工して取り付けた。

古いクルマだけあって、ケアもメンテナンスも手がかかることは容易に想像できる。
「そうですね。今日大丈夫でも次の日になると調子が悪かったりと日々表情が違いますね。運転している時も常にクルマの状態をチェックしています。『頑張って走ってね』とか常に会話をしていますよ。この子はその時の気分次第で、男の子になったり女の子になったりするんですよ(笑)。この子のことは、全て頭に入っていますね。それにしても途中で動かなくなってレッカーに引かれて帰ってきたことも多々あるので、僕もこの子には鍛えられて、強くなりましたよ(笑)」

クルマとの会話を楽しみつつ奥様と二人の子どもがベンチシートに座り、“家族”みんなで出かけるドライブは何ものにも変えがたい、至福の時間だと山中さんは語る。インターナショナルハーベスターもきっとハッピーに違いない。

MY FAVORITE ROAD
「海岸線も気持ちがいいんですけど、このクルマはブレーキが弱いので国道134号線は信号が多いからチョット苦手ですね。基本的には新湘南バイパスや圏央道みたいなハイウェイ系はスムースに走れて気持ちがいいですね」

>MAP(新湘南バイパス・茅ヶ崎海岸IC付近)
愛車と同じ1959年製のドアノブを加工して取り付けたシフトノブ
オリジナルのサイドミラーにもインタナショナルハーベスター社のロゴが入る
自家用にだけでなく、もちろん仕事にも大活躍している

OWNER'S PROFILE

山中 連臣

1982年、神奈川県藤沢市生まれ。平塚市在住。
建築業を中心に設計、施工管理、ペイント、家具の製作等、マルチでクリエイティブな活動を展開する「Kダヴィンチ」のメンバー。
クルマはもちろん、アンティーク家具のメインテナンスもお気に入りの趣味の一つ。